大きく振りかぶり、投げる獅子連者。2本の指で弾くように投げたボールは、不規則な軌道を進んでいく。


「あれは…………究極の魔球と呼ばれる゙ナックルボール゙じゃないか!?」



テンマレンジャーが驚く。まさに、あんな隠し玉を持っているとは………


「でも、遅…………」


フワフワとしていて、遅すぎる。打たれるのは確実にである。


「ああ…………」


















゙スカッ!゙














打者が振ったよりも遅く、ミットに納まる。どうやら、遅すぎてタイミングがズレるらしい。


「いい………のか、これで」

















「ハァ………ハァ……やっと、着いた………」


息切れしながらも、裕典は球場に辿り着いた。正夫達が何を話していたかはわからないが、唯一聞こえだ隣町の球場゙へと来たのである。


「何でダイレンジャーが…………」


正夫達がいないばかりか、ダイレンジャーとゴーマがいる。しかも、行方不明になっていた恭介らチームメイトがいるではないか。



「恭介…………みんな…………」


どうやら、ダイレンジャーと恭介達が試合をしているらしい。
なぜこんなことになっているかはわからないが、試合は既に8回の裏が終わったところであった。





゙4―5゙







9回の表・つまり、これで追いつかなければキッズ達は負ける。


「大丈夫、野球は9回の゙3アウドからって………」


「そりゃ試合終わってるだろうが!」


リュウレンジャーにツッコむテンマレンジャー。とはいえ、冗談抜きでキツい。
結局、恭介は9回全てに登板してきた。6年生もいたにも関わらず、出してきたのは潜在能力の高さからである。



「何だかんだで、みんなを疲れさせちゃってるね………」


息切れというより、既に喘息や動悸という状況。ホウオウレンジャーの治癒術も、バット監督達の目があるせいで少年達には施せない。


「とにかく、ここで2点以上を取って、次は死守する!」



そこで、シシレンジャーがバッターボックスへと立つ。ここまで、目立ったプレーをしていない。


(!?。裕典………)


裕典に気づく。正夫の姿ではないものの、一旗上げて、中身が大事である証明をしてみせる。


「よぉし、来い!」


シシレンジャーの声を受け、恭介も汗を拭いながら、ボールを投げる。
ここにきて、勢いが衰えないムービングファストボール。シシレンジャーのバットがストレートのコースを空振り、ミットへと納まる。


「う………」


しまった。ここで打たなきゃいけないのに。
2球目。ムービングファストボールにくらいつき、何とか当てるが、ファールに終わる。


「くそ………」


何とか当てなければ…………何とか。とはいえ、自分の実力でムービングファストボールを真芯で捉えれるわけではない。
今までの打席も、ストレートに当てたくらいしかない。


(何とかして、塁に出なきゃ…………)









シシレンジャーが考えてる間に、グローブ指導員は万一のために恭介に向かって更に妖力を注いだ。
すると、恭介の腕に赤と黒のオーラが現れてくる。


「!!?」


恭介は振りかぶって投げる。その球威は凄まじく、軌道に砂ぼこりを引き起こす程であった。
シシレンジャーは躰を前に出す。そして、肘にボールが当たってしまう。


「ぐっ……………」


落ちたボールはやや煙が出ていて、摩擦のかかり具合がわかる。