恭介が押さえ、裕典が打つ。それが理想であった。しかし、最早かけ離れてしまったのである。


(恭介が怒ってたのは…………)


「練習時間だから、行くね」


智佐子はそう言って、第二グラウンドに向かった。正夫は考えながらも、ひとまずその場を後にしたのだった。















゙喫茶店゙セブン゙に来てからも、正夫は1人考えていた。目の前のケーキや紅茶に口にすることなく、目を瞑っている。


「正夫のやつ、いったい何があったんだ?」


口にケーキを含ませながら健一が言う。


「そういや、どこに行ってたの?」


町子の疑問に答えれる者はここにはいない。コウは意を決し、正夫の隣に座る。


「なあ正夫、悩みがあるなら言ってみな。ほら、このケーキ奢るから」


それは自分の金で払ってからにしろ、とリンは思いながら他の客へコーヒーを出す。


「……………」


「正夫?」


「…………………」


「まーさーおー君!!」


「…………………………」


「ま~~さ~~~~おぉぉぉォォォッッ!!」


「うるさいなァァッ!!!」


『!!?』


眼を開き、怒鳴る正夫。驚いたコウや他のキッズは、正夫とは違う意味で眼を見開いてしまう。


「な、何だよ………お前が黙ってるから………」


「わかんないんだよ!コウには、僕や裕典の気持ちはさ!!」


「え?裕典??」


なぜ裕典が?、と思っていると、正夫は立ち上がって出口に向かう。


「正夫!?。どこ行くんだよ!」


健一の制止を気にすることもなく、正夫は店を出た。ちょうど居合わせた優美とすれ違うものの、気がつかずに走っていってしまった。
逆に、優美が店に入ってくると、キッズ達は相談をしていた。


「今、正夫君が………」


「うん……………」


何故か違う意味での作戦会議が始まった。それをランとリンは物珍しそうな表情を見ている。
会議の中で、最初に口を開いたのは由貴だった。


「正夫君は学校から出る時から、何か考えていたみたいだよ」


まず、正夫が下校前ないしは授業中から何かを考えていたらしい。


「今日は授業無しで、球技大会だったわよ」


町子としては、今日は何もなかった。少なくとも、コウ以上の特大ホームランを叩きだしたため、満足している。


「正夫は確かに活躍してなかったけど、それで悩むタイプじゃねえしなぁ」


両腕を重ねて頭の後ろにすると、椅子によりかかる。どうも出てこない。


「そういや、裕典………って言ってたよね。何か関係が…………」


怒鳴った際に言っていた裕典の名前。それと今日の出来事が、何か関係あるのかもしれないとコウは推察した。


「裕典君って少年野球してたよね。スポーツセンターにある野球場で練習やってるかも」


優美の言葉を聞くと、キッズ達は走って店を出た。正夫の悩みの鍵は、裕典が握っているだろう。