「ハァ………ハァ………キツぅぅ……優美ちゃん、後は………」


「ええ。任せて。」



気力を大量に消費したキリンレンジャーは退き、クジャクレンジャーが孔雀連節剣を地面に突き刺す。



「秘奥伝・゙孔雀明王扇!!゙」


孔雀連節剣は地面に突き刺さったまま、放射状に増殖していった。否、クジャクビットが増殖しているのだ。
クジャクレンジャー本人すら数を把握できない程に増えているため、初見のキリンレンジャーも圧巻である。


「散!」


クジャクビットが離れていく。紫色ではあるが、まるで桜の花びらの如く舞い、天空を覆い尽くしている。
それをクジャクレンジャーが手を動かしながら操り、ジゲンΩの下半身部分を囲ませる。


「…………゙斬!!゙」



クジャクレンジャーが゙斬゙の掛け声をすると共に、クジャクビットが一斉に中心にある下半身へと向かう。







゙ドゥバァァァァンッッ!!゙








轟音が鳴る。クジャクビットの間から、ヘリコプターの破片が出てくる。
あの一瞬だけで切り刻まれ、既にネジの大きさほどになっていた。


「…………ふぅ………」


クジャクビットは消えていき、元の数までに戻る。クジャクレンジャーもキリンレンジャー同様、気力を大幅に消費したのだ。
遠隔操作だけでも気力を消費するが、膨大な数であれば気力に加えて、精神力も消耗が激しい。


「優美ちゃん…………ピケルは………」


キリンレンジャーが近づいてくる。お互いに気力を使い果たし、転身が解けてしまう。
2人はまだ小間切れになったジゲンΩのいた場所を見守っている。


「…………正夫君………」


優美が呼ぶと同時に、周囲の温度が急激に下がっていく。
シシレンジャーは、2人が奥義を使っている間に、気力を溜めていたのである。
この戦いに勝つための手段として。


「町子ちゃん、優美ちゃん、下がってて。」


シシレンジャーが狛犬斧を構えると、瓦礫からジゲンΩ以前の鎧を纏ったピケルが現れた。


「何………今の………」


あり得ない。あれだけの大きさのジゲンΩを一撃で斃すような威力を、あんな小ささで出すなんて。
少なくとも、今まで滅ぼしてきた次元にはいなかった。


「あなた達、何なの!?」

鋭い爪を生やし、シシレンジャーに向かっていく。迎え撃とうと狛犬斧を振ると、ガシンと鍔迫り合う。


「あなた達は、あたしにぃ、遊ばれて、滅茶苦茶にされなきゃダメなの!!」







゙や、やめて………ウッ!!゙












゙怖いよォォッ!た、助け…………わぁぁぁァァァッ!!゙













自分が襲ってきた裏次元の子ども達を思い浮かべる。
物質の再構成を活かし、あらゆる方法で殺めてきた。ある時は壁に埋め込んだり、ある時は鎧を纏ってミンチになるまで引き裂いたり。
それも、他の子どもがいる前で。楽しんでやっていた。それしか、楽しむ術は知らない。゙裏次元侯爵゙と呼ばれる由縁は、戦いを愉悦してるわけではない。
殺す時に笑うからである。まるで、おもちゃで遊ぶ子どもみたいに。



「いい加減、壊れてよォッ!」



爪が狛犬斧を弾く。シシレンジャーは急いでスターソードを抜き、2撃目を防いだ。


「君は自分より弱い子しか狙わない………それで楽しんで殺すなんて、ひどすぎる!」


「何なの………さっきから!」



爪で押しきられ、はね返されたシシレンジャー。その後、スターソードを天へと掲げ、溜めていた気力を一気に解放した。



「霜氷星奥義・゙氷覇禅湊!!゙」




゙ズオッ!!゙




「これは!?」




周囲の物が一斉に凍りついた。それは、シシレンジャーを中心に吹雪が巻き起こっていたからである。
いや、吹雪というのは生易しい。絶対零度に達した超冷気が嵐のように吹き荒れているのだ。
離れている町子と優美は、シシレンジャーが言ったように退避しておいて正解だったと認識する。


「これが正夫君の奥義?」


「違うよ。多分、これは正夫が奥義を放つための準備…………」



町子の言う通り、シシレンジャーはスターソードを胸の前まで持っていく。
すると、超冷気が刀身に集まり、凝縮されていったのだった。



「ピケル、この技は受けたら最後だよ。今なら………」


「何よ!バカにしてぇぇェッ!!」


向かってくるピケル。シシレンジャーはスターソードを振り、爪を避けながら゙腕゙を斬った。



「??」


変わった様子はない。斬られたのにもかかわらず、ただ剣が触れた部分が僅かに凍ったにすぎない。



「何ともないじゃない」


「そうかな?腕を見てみなよ」


「え?」



もう一度見てみると、斬られた部分の氷が広がっていた。というよりは、腕そなものが氷になっているようだった。


「な、何これ………」


「絶対零度は氷系の技の最高であり限界。それを超えるために、一点へと冷気を集めて敵を斬る。それが゙氷覇禅湊゙だよ。」


「!?」


「そして、絶対零度を超えた冷気は物質の運動を停止させるだけでなくて、破壊するんだ。」


次々と鎧が凍りついていき、後を追うように崩壊していく。


「い、いやぁぁァァッ!!」










゙パアァァァンッ!!゙







鎧を分離させ、体が凍りつくのを防ぐ。鎧はパージされた衝撃で砕け散る。



「う………もう一回、作り直せば………」





゙シュッ!゙






スターソードが投げられ、頬を掠める。その瞬間、ピケルは頬に触れた。すると、みるみる内に傷から氷が広がっていくのがわかった。


「あ………あ………」


触った手も氷づいている。

「いや、助けて………もう悪いことしませんから!」


シシレンジャーにすりよるピケル。しかし、腕や足が崩れ去ってしまう。


「いやぁぁぁぁぁァァァッ!!」


自分が殺してきた子ども達と同じように泣き叫ぶ。そして、やがて恐怖に呑まれたまま、砕け散ったのだった。



















゙パリィィィンッ!!゙





「はい。ジャスト1分………」


「え?」


ピケルは生きていた。しかも、五体満足のまま。


「あ、あたし………」


「天幻星・゙夢幻想(むげんそう)゙で、君に悪夢を見てもらったんだ。」


天幻星・゙夢幻想゙とは、1分間だけ相手に幻を見せる技である。



「いいかい。君は普通の女の子として生きるんだ。じゃないと、今のは現実になるよ。」


「…………」


「返事は?」


狛犬斧を突きつけられ、ビクッとしながら首を縦に振る。
頷いたシシレンジャーは転身を解き、町子達と合流した。


「勝ったよ!」


「奥義3発に悪夢なんて、ちょっとひどすぎたんじゃない?」


「でも、ピケルを殺さずに改心させるには、゙夢幻想゙をくらわす隙が必要だったんだよ。」


「……女の子には優しいね、正夫君は。」



優美の一言で慌てる正夫。勘違いされたらたまったもんじゃない。



「それより急ごう!」


町子の言葉に頷く優美と正夫。東京駅に向かって走り出す。後には、放心状態になったピケルがただ座り込んでいるのだった。