「ハァ………ハァ…………」


ステージ衣装のまま、逃げていくアコ。ここまで来るのに人に逢わなかった。
クリスマスライブ会場の事件が報道されたのか、スカイフォースによる警報なのか、みんな避難したんだろう。



「く…………うぅ………うぅ…………」


公園の木陰で泣くアコ。騙されたばかりか、自分の夢がみんなを苦しめていることが辛く、悔しい。
みんなを笑顔にするためのものだったのに。これでは、全く逆だ。更には変身もできず、戦うことすら出来ないなんて。










゙ジャラン♪゙







「!?。この音は………」

何やらギターの音だ。事件があったというのに誰だろうか。
木陰から出ると、公園のブランコに座っている少年がいた。自分と同じか、年下っぽい。


「あ、あなたは?」


「!?。」


振り向いた少年は、思いの外イケメンだった。だが、アコにはどこか見たことがある。


「……………アァッ!!。もしかして、野球してた1年生!?」


そう、昼休みにパンを変えなかった原因を作った後輩の一人に、この少年がいた。


「早坂先輩!?。あ、俺はジェフリィ・剣崎っていいます。ジェフって呼んでください。あ、そういや番組の途中じゃあないんですか?」


「…………ニュース見てないの?」



「ああ………さっき携帯のワンセグで見てたんですけど、何がしばらくお待ちください゙って出ちゃいまして。」


それからテレビを見ていないとはいえ、人が避難してるのをわからなかったのだろうか。


「ジェフは………なんでここに?。家族や友達とクリスマスイブを過ごさないの?」


「俺の友達はみんな彼女と……………家族は親父が仕事ですから。」


「お母さんは?」


「……………病院ですよ。精神科のね。」


ハッと、アコの背筋が伸びる。悪いことを聞いてしまったかもしれない。


「俺の母親、ヒステリックで鬱病でして。小さい頃は、よく虐待を受けたものですよ。」


「…………」


「でもね、お袋が入院してから、ギターを覚えて、ちょいと聞かせたんですよ。そしたら、゙下手糞゙って。」


ジェフはギターを弾き始める。きっと、母親に聞かせたという曲だろう。


「それから、何度も曲を聞いてもらいまして。何度も下手糞だって言われましたよ。でも、笑うようになってくれて。」



ギターから奏でられるメロディは、どことなくアコを落ち着かせている。
確かに、それほど上手いわけではないが、心に響いてくる。



「俺が思うに、音楽は人そのものなんすよ。響いてくるメロディや歌声が、心を表してる感じがしまして。」



「心?」


「そうっす。自分の気持ちっていうのを伝えれるんですよねぇ。」


「自分の気持ちか……………」



思えば、人を楽しませたいという気持ちより、自分がアイドルになったという事に酔いしれていた。
サインを求められて浮かれていたし、優先するべきバイラムとの戦いを避けてしまった。
何より、本当に自分の力で勝ち取ったアイドルの座ではない。


「………………ジェフ、携帯貸して!」


「へ?」


「早く………あ、来ちゃった………」


携帯を無理矢理取り上げるアコ。しかし、公園には追ってきたバイラムジェットマン達が迫っていた。


「な!?あれ?ジェットマン?」


「…………ジェフ、これ付けて!」



アコは自分のクロスチェンジャーを外し、ジェフの右手に装着させた。
自分が出ていた番組を見ていたら、もしかしたら………。


「先輩、これ何すか?」


「いいから、ブレスを押して!」


「は、はい………」


言われるがままにブレスを押すジェフ。







゙プルップルッ゙








電子音が響き、ジェフが緑色のバードニックスーツを纏う。やはり、視聴している者には微弱ながらバードニックウェーブがあるようだ。