4限目の終了間際、全校生徒の大半は時計を気にしている。昼間の購買は生徒で殺到するためだ。
油断をすると、昼飯はない。だから、一足早く、誰よりも速く、走らなければならない。


(早く鳴れ………早く………)


アコもその内の1人。弁当が一番だが、今日の狙いはパン。木曜日だけは、地元で人気のパン屋が売りに来る。
その中でも、カレーパンは野菜や肉がゴロッと入っており、辛さも程よく絶品である。アコも3年間の中で、2回しか食べたことがないが、虜になるにはそれだけで十分なのだ。














゙キーンコーン、カーンコーン゙















「終わった!」


アコの一言で、一斉に生徒達は教室を出る。当然、全校生徒がそんな状態なのだ。これはもはや、競争ではなく、戦争なのだ。
そんなこともあり、教室に残された教師達は挙って台詞を口にする。



「礼が残ってるぞ………」

















階段をかけ降りるアコ。後ろからは速すぎるという声が聞こえる。
こういう時はバードニックウェーブの恩恵に感謝する。地球を守ってるのだ、カレーパンくらい食べるために使ってもバチは当たるまい。


「あとちょいッ!」


購買もあと少し。窓越しに、パン屋がカレーパンを下ろした場面が見えた。
数人の生徒がいるようだ。この階には2年生がいる。きっと、彼らだろう。


「させるかぁッ!!!」


腰と脹ら脛が一時的に沈み、一気に伸ばす。ジャンプしたアコは半回転し、テーブルを手で叩き、再び元の体勢に戻って着地した。


「早坂先輩!?」


驚く2年の男子達を尻目に、財布から130円を取り出した。


「君達~、カレーパンを譲り………」


「危なーーーーい!!」


「んあ?」


突然の声に振り向くアコ。目の前には野球ボールが迫っていた。しかも硬式ボール、普通ならば当たって病院送りだが………。







゙バシッ!!゙








見事に顔面寸前で掴む。裏では、後輩たちは、素手で取ったことの方に驚いている。


「すんませーん、大丈夫ですか?」


窓の外から聞こえてきたのは、1年の男子達。体育の授業が終わった後も、続けていたようだ。


「ちょっと、アンタ達危ないじゃない!!」




窓から叫ぶアコ。男子は申し訳なさそうに謝っている。
許してやりたいところだが、ただというのも癪だ。


「返すよ~~。………そりゃァッ!!」


ヒョイッ、とボールを投げる。しかし、ジェットマンとしての力で投げられているため、超剛速球となって後輩のグラブへと納まる。


『うぉわぁッ!』


驚く1年坊主達を気にもせず振り返るアコ。これで邪魔する者はいない…………。








゙ガヤガヤ゙





既にゴッタゴタの食堂。パン屋にも人は集まっており、身動きすら出来ない。



「あああぁぁぁァッッ!!あたしのカレーパン………」


昼食を手に入れた生徒達から去っていき、ポツンとアコが取り残される。
弁当は完売し、パン屋に残ったパンは………。




「すいません…………その、ジャムパンください………」