逃げるように店を出て、近くのゴミ捨て場へ持って行く。


「ひゃぁ………危なかった…………」


危なくミンチにされるとこだった。冷や汗まであいてしまっている。今後、店の中で言うのはやめよう。
気を取り直し、目と鼻の先にあるゴミ捨て場へ持って行こうと足を踏み出す。





゙チリリン゙



「危ねえ!」


「!?」


ベルの音と鬼気迫る声。自転車が後ろから接近している。亮は腰を捻りながら、くるりと回って自転車をかわした。
乗っていたおじさんは、手でごめんの形をしながら、通り過ぎていく。急いでいるのだろう。
未然に事故を防いだことで満足げな亮。しかし、下を見ると表情は一変した。
なんと、ゴミが散乱しているではないか。しかも、生ゴミだ。始末が面倒くさいが、放っておくわけにもいかない。しかも、餃子の肉も買わなければ………。
もう絶望的だ。そう思ったら、自然と膝を落としてしまった。
もう、神も仏もあったもんじゃない。






「お兄ちゃん、どうしたの?」








幼く、可愛らしい声。バッと振り向くと、髪を2つ結びにした少女が立っていた。


「あ…………由貴ちゃん………学校の帰りかい?」




少女の名前は由貴という。現在は小学3年生で、亮とは小さい頃からの知り合いである。



「うん。お兄ちゃんこそ、どうしてそこに座ってるの?」


「う………実は……………」


視線をゴミ捨て場に向ける。由貴もそれを目で追うと、惨劇を目の当たりにした。



「あちゃーー……………あたし、手伝ってあげる。」



そう言うと、由貴は手袋を外してポケットにしまい、生ゴミをバケツにしまい始めた。
亮は驚き、慌てて由貴の小さな手を止めたのだった。


「よ、汚れちゃうよ!」


「後で手を洗うから、大丈夫だよ。早くやっちゃおう!」


地獄に仏とは、まさにこういうのなのだろう。亮は由貴の好意に甘んじて、手伝ってもらうことにした。
そんなに落ち込んでる場合じゃない。


「いや~~~、本当に助か………」







゙ピイィィィィン゙







「!!?」


一瞬ではあるが、゙何がを背中に感じた。亮は立ち上がって後ろを向く。
そこには、自分が見慣れた街の風景だけだ。人々も亮や由貴を見ることなく、自分の目的に沿った移動をしている。



「どうしたの?」


由貴は気づかなかったようだ。いや、自分の気のせいかもしれない。
風が強く吹いてきた。もしかしたら、このせいかもしれない。


「………なんでもないよ。」



亮は自分を納得させるためにも、そう言うのだった。そうじゃなければ、この日常が壊れてしまうのではないかという気持ちがあったのである。
亮は気持ちを仕切り直し、由貴とゴミ拾いをする。今度、アイスクリームでもおごらないといけないだろう。こんな日常が、続いていくんだと、思っていたのだった。





そんな様子を、亮と由貴がいるゴミ捨て場から道路を挟んだビルの上から見下ろす人物がいた。
その人物は、茶染めされた胴着を着ている。性別は男性で、年齢は40代前半。
ただ静かに、亮と由貴を見ているだけであった。








「本当に助かったよ。ありがとう、由貴ちゃん。」


「どういたしまして♪。頑張ってね、お兄ちゃん。バイバーイ!」