『トリック・オア・トリート(お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ)!!』



子ども達に家のドアを叩かれ、そう言われた大人はお菓子を出さなければならない。
商店街も同様で、肉屋はコロッケ・八百屋はバナナなど、それぞれ得意とするものを出している。
子ども達を連れてきた親も、ハロウィンセールをしている商店街で買い物するため、経済的にもいい。


「いいよなぁ、こういうの………ん?そういや、この先は…………」



瀬川豆腐店が見える。そう、町子の家だ。今日は営業してるようだが、何を出すのだろう。
子ども達は店の前に並び、ババッと口を揃える。


『トリック・オア・トリート!!!!!』



「はぁい。じゃあ、おからドーナツね♪」



出てきたのは町子だった。どうやら、おからを使ったドーナツのようだ。
味は美味しいようなので、子ども達は喜んでいる様子だ。


「ん?あの奇抜なスタイル………知兄ちゃん?」



子ども達の脇で、豆腐を食べている。醤油をかけすぎじゃないかと思うくらいにかけ、箸を使って口に含む。



「うん。やっぱり、町子ちゃんの家の豆腐はエキセントリックだね。」



あんたの頭がエキセントリックなんだよ、と言いたいコウだったが、そこは抑え、子ども達の警護に集中した。












午後7時30分になり、終了時刻も近い。もらったお菓子を公園で食べてる子ども達に時刻を告げ、そろそろ連れて帰らなければならない。
そう思っていると、1人の少女が近づいてきた。彼女はジャックランタンの仮装をしているが、やや恥ずかしがっていそうだった。


「どうしたの?」


由貴が優しく話しかける。何だか、由貴が真司以外にお姉さんっぽくなってるのも新鮮だ。


「か、かのん…………花音ね………お兄ちゃんと、お姉ちゃんに………」


お菓子を手のひらに乗っけて、差し出してくる。


「お姉ちゃん達にくれるの?」


花音と名乗る少女は、頷く。コウは受け取ると、花音の頭を撫でる。


「ありがとう。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも嬉しいよ。」


そう言うと、花音はにぱっと笑い、友達の下へ帰って行った。
ちょっとしたお礼のつもりだろうか。嬉しい。素直にそう思えた。



「あたし達、お兄ちゃんとお姉ちゃんだって。」

「亮兄ちゃん達も、こんな気分だったのかな。」


悪い気分じゃない。こんな風に後輩がいるのは、決して嫌なもんじゃなさそうだ。