由貴は覚めた。どうやら、気絶していたようだ。周りを見渡すと、どうも気味悪い。
空のように見える赤い天井、血の匂い、何処からか聞こえるうめき声。
現世であるようには見えない。かといって、天国だとも言えない。


「ここって………」


「フフフ………相変わらず可愛いね。」


「!!?。誰!?」


後ろから聞こえた声に反応し、振り向く。すると、そこには黒装束を着た少年が経っていた。


「由貴、久しぶりだね。」


「阿古丸君………?」


「不思議じゃないだろ?私は死んだんだから。地獄にいても…………ね。」


やはり地獄だったようだ。阿古丸は悪行をしていた。子供とはいえ、地獄に来るのはおかしくはない。
だが、それよりも、驚いたことがある。似ているのだ。阿古丸は、コウに似ている。
生前はそう思わなかったが、雰囲気が近い。いや、むしろ、コウが阿古丸に似てきたのかもしれない。
澄みきったイメージを抱かせるコウが、最近は激しいものを現すようになってきたのだから。


「君も死んだんだね。しかも、自分の世界ではない………」


「知ってるの!?」


「ああ………。私はあの世から見ていた。そう………世界が崩壊したことだけじゃない………ゴーマ最大の秘密もね………。」


ゴーマ最大の秘密。それが何かを知りたい。しかし、今はそれよりも、地獄を抜け出すことを考えなければ………。


「ねえ、阿古丸君があたしを地獄に連れてきたの?」


「そうだよ。」


「どうやって………」



「地獄も含め、あの世とは魂の世界…………魂が願ったことは、それが思い描けるのらば現実になる。」



終始落ち着いている阿古丸。ずっと同じ場所に立っていたが、由貴の前まで歩いてくる。
そして、由貴の手に触れる。冷たい。魂同士の状態にも関わらず、阿古丸の手は機械のように無機質な冷たさがあった。


「私と………………夫婦にならないかい?」


「!!?」


思いもよらない、阿古丸からの告白。だが、顔が赤くなったりはしない。
阿古丸の眼は、至って笑い目である。だが、その瞳が見ているものは由貴ではない。
もっと別の……………。いや、何も見ていないのではないだろうか。


「あ………あたし…………」



「コウがそんなに好きかい?」



「え………」


「どうして………コウなんだい?なぜ………私じゃない………」


ついさっきまで表面上だけでも柔らかかった表情が、今度は驚くほど凶悪な歪み方をしている。
怖い。前の阿古丸は、こんなに邪悪な感じはしなかった。まるで、シャダムやラディゲのような雰囲気を漂わせている。



「まあいい………いずれ君は私のものにしてやる。」


手を放し、阿古丸は悲しげな表情をしたまま去っていった。



「ま、待って………」


由貴は追いかけようとするが、霧が出てきて見失ってしまう。
この地獄で、たった1人になってしまった。



「…………どうしたら………。………!?」



背後に何かを感じ、振り向く。だが、何もいない。何かがいるはずなのに。




゙カサカザ




「!!?」



反対側から音がしたかと思いきや、由貴の体に何かが巻きついた。
すると、物凄い力で引っ張り、由貴を引きずっていく。



「う………こ、これって…………」


覚えがある。かつて、恐怖を抱いた最初のもの。この後、この゙紐゙の主に飲まれたのだ。


(な、なんとかしないと…………そ、そうだ!)


ここは願いが、思いが強ければ現実になる。だとするならば、気力を使おうと思えば使えるはずだ。