理由なんてわからない。嘉挧がそれを拒む理由なんて、知りたくもない。
健一はギュッと拳を握り、嘉挧を睨んだ。



「じゃあ、道士は由貴ちゃんが死んだままでいいのかよ!」



「そういうことを言ってるのではない!。いいか………人の生命とは、気力のように調和の中にあるのだ!。何億分の一の確率で、1人の人間が誕生し、それぞれの生きる道を往く。その死を否定するのは、その生を否定することに繋がる!」



「ワケわかんねえよ!」

「お前達は生命を選ぶ権利などないのだ。バイラムや魔神達に殺された人は生き返らせず、由貴だけを特別にしていいのか!!」


その通りだった。今までの戦いで、犠牲者がいなかったわけではない。現に、あの病院の患者の半数は死んでしまったのだ。



「王青龍!お前も………気伝獸でありながら、何をしているかわかっているのか!」


気力を司り、調和を保つための存在である気伝獸が、それを崩そうとしている。
嘉挧には赦されるものとは、思えなかったのである。


「嘉挧様……………確かに、人間………いえ、生命持つ者に生命を操る権利など、ないのかもしれません。しかし、その生命は生きてこその生命なのです。」


「何……?」



「生命というものの価値観は、人間だけが決めたもの…………。あなたも言ったように、生命とは自らの生き方を自らが決めることができます。それは、奇跡なんです。」


「それは………」



「生きることとは、進化ではなく変化なのですよ。それは自ら選ぶことが出来る。それは、あらゆる可能性と希望を生むのです。生命の尊さは、死ではなく、生き様なのです。」


仮に嘉挧の言ったように、人を生き返らせる権利を選ぶことが出来ないなら、死を強制させる権利だってありはしない。
可能性。それはすべての生命に与えられた、その生き抜くための力なのだ。
コウも迷う。出来れば、犠牲になったすべての人を生き返らせてあげたい。
だが、そんな事はできない。だが、由貴が生き返るならば、これから犠牲になる人を減らしたり、無くす事が出来るだろう。


「道士の意見も、王青龍の意見も難しくてよくわからないけど………。生命の在り方は誰かが勝手に決めていいものじゃないよ!」


「コウ………」


「そりゃあ、由貴ちゃんだけが特別なのはよくないかも………。でも、由貴ちゃんがいれば、もっと多くの人の命を護ることができるんだ!」


「だが………」


「それに………僕達はこの世界だけじゃない………。幾つもの世界を救わなくちゃいけないんだ。理屈だけじゃない…………だって、人があんな理不尽に死ぬなんて悲しいじゃないか………」


正しいも悪いもないのだ。