とはいっても、止めないわけにはいかなかった。何とか健一を宥め、そこで別れた。
気がついてみると、空は曇り始めている。夕立でもあるのだろう。
町子は朝に父から言われたことを思い出す。いくら、自分の心は自分のものでも、体はこの世界の町子なのだ。
由貴は死んだ。この世界の由貴も同時に。当たり前のことが、こんなにも悲しく、切なく、怖ろしく、ありがたいと思えた。生のありがたさを、改めて思い知る。
家の近くまで来た時だった。雨が降り始め、辺りは一層暗くなってくる。
後少し、後少しで家に着く。町子は走り出し、濡れるのを構わなく思った。
だが、足を停める。雨は強くなり、すぐに止む様子はないにも関わらず、ただ歩く少年がいたからである。
「コウ……?」
顔が虚ろで、まるで半死人かと見誤るくらいに、活きた顔をしていない。
町子は駆け寄り、手を握った。そして、共に走り出す。
びしょ濡れだったため、コウは風呂に入れてもらっていた。
そう、町子はコウを家に入れたのである。両親も受け入れ、優しく迎えてくれた。
風呂から出ると、タオルが置いてあった。乾燥機で乾かすといっても、時間がかかる。町子しかいないため、男物のパンツはないためである。
「ありがとね、町子ちゃん……」
部屋に入ると、町子はもう着替えており、髪を渇かしていた。
髪を下ろした姿を見るのは珍しい。
「……………ここ、座りなよ。」
ちゃぶ台があり、それを2人で対面する形で囲む。おからを使ったドーナツとお茶が置いてある。用意してくれたのだろう。
「あんたさ…………おかしいよ。」
「え?」
「健一みたいに学校来ないならわかるけどさ…………学校では無理して明るく振る舞ってるかと思いきや、外じゃこんなにも落ち込んでるなんて…………」
スゥッとお茶を啜る町子。コウは下を向いたままである。湯気が立っているお茶の水面には、ヒドく暗いコウの顔があった。
「わかんないんだよね………」
「え…………?」
「僕が滅茶苦茶やって魔神を斃したっていうけど、何も晴れない………。いつものようにしようとしてもさ、心から明るくなれない………」
気がついてみると、空は曇り始めている。夕立でもあるのだろう。
町子は朝に父から言われたことを思い出す。いくら、自分の心は自分のものでも、体はこの世界の町子なのだ。
由貴は死んだ。この世界の由貴も同時に。当たり前のことが、こんなにも悲しく、切なく、怖ろしく、ありがたいと思えた。生のありがたさを、改めて思い知る。
家の近くまで来た時だった。雨が降り始め、辺りは一層暗くなってくる。
後少し、後少しで家に着く。町子は走り出し、濡れるのを構わなく思った。
だが、足を停める。雨は強くなり、すぐに止む様子はないにも関わらず、ただ歩く少年がいたからである。
「コウ……?」
顔が虚ろで、まるで半死人かと見誤るくらいに、活きた顔をしていない。
町子は駆け寄り、手を握った。そして、共に走り出す。
びしょ濡れだったため、コウは風呂に入れてもらっていた。
そう、町子はコウを家に入れたのである。両親も受け入れ、優しく迎えてくれた。
風呂から出ると、タオルが置いてあった。乾燥機で乾かすといっても、時間がかかる。町子しかいないため、男物のパンツはないためである。
「ありがとね、町子ちゃん……」
部屋に入ると、町子はもう着替えており、髪を渇かしていた。
髪を下ろした姿を見るのは珍しい。
「……………ここ、座りなよ。」
ちゃぶ台があり、それを2人で対面する形で囲む。おからを使ったドーナツとお茶が置いてある。用意してくれたのだろう。
「あんたさ…………おかしいよ。」
「え?」
「健一みたいに学校来ないならわかるけどさ…………学校では無理して明るく振る舞ってるかと思いきや、外じゃこんなにも落ち込んでるなんて…………」
スゥッとお茶を啜る町子。コウは下を向いたままである。湯気が立っているお茶の水面には、ヒドく暗いコウの顔があった。
「わかんないんだよね………」
「え…………?」
「僕が滅茶苦茶やって魔神を斃したっていうけど、何も晴れない………。いつものようにしようとしてもさ、心から明るくなれない………」