最西端到達証明書(No.83326)*10/3
お別れのときが近づいてきた。
もうここに来ることはないのではないだろうか?
そう思うといつも切なくなる。
ここでもそうだった。
どこまでも続く海岸線。
絶壁のその西側にはただただ水平線が続く。
ロカ岬の海の音、風の音、それは他のどの場所ともまた違う、
最西端という特別な場所の音。
余談だけど、わたしは海外を旅行した際に撮る写真に、様々な国から来た観光客を入れるのが好き。
世界には想像以上に多くの人が生きているということを実感するから。
このユーラシア大陸の果てにも、たくさんの観光客が訪れていたけれど
びっくりしたのはあともう少しでロカ岬ともお別れというときに、日本人の団体客がごっそりバスでやってきたこと。
ちょうど何かのツアーの予定に組まれていたのか、それまで異国の地にきたと感慨深かったのだけれど
何か現実に引き戻された気がした。
日本人、よくこんなにたくさん遠いところからやってきたなあと、
自分も日本人のくせに、なんだか妙に関心してしまうのだった。
水平線沿いには雲が横一線に並んでいたから、やはり夕日は期待できそうにない。
それよりなによりバスの時刻が迫っていたから、夕暮れまでここにいることはできない。
少し残念だったけれど、赤や黄色の植物が鮮やかに彩る、想像もしなかったロカ岬が見れたから
なんだか満足だ。
地の果てロカ岬は、無彩色な場所を予想していたのに、
意外にも、植物が岬を黄色く彩り、あたたかな色彩の場所だった。
そうそう、ここロカ岬では、バス停の前にあるインフォメーションで
「ユーラシア大陸最西端到達証明書」というものを発行してくれる。
小さいものが€5、見開きで大きいものが€10。
わたしたちは小さいほうを2枚、発行してもらった。
名前と日付が古めかしい装飾文字で書き込まれ、最後にはロウ印を押してくれる。
地の果てにきたことが紙で残せるなんて素敵なサービス。
2人の担当者たちはわたしたちを対応中にもお喋りがとまらない。
いったい何の話をしているのだろう?楽しそうにお喋りしながらのお仕事、ポルトガルらしい平和な光景。
でもいざ装飾文字を書くときにはお喋りがやんだ。
しっかりと間違うことなく文字を入れてもらえた。
しかしその後すぐにお喋りは再開。
一日中何を話しているのだろう?まったくなんて平和なんだか、笑いそうになってしまう。
この証明書、裏には何人目に発行されたかを記す番号が。
そして1番下には、
「ポルトガル国シントラにあるロカ岬に到達されたことを証明します。
ここは、ヨーロッパ大陸の最西端に位置し、『陸尽き、海はじまる』と詠われ、
新世界を求め、未知の海へとカラベラ船を繰り出した航海者たちの
信仰心と冒険魂が、今に尚、脈打つところです」
さて、お金を払おうとして、ある友人の顔が思い浮かんだ。
宮本輝の「ここに地終わり海始まる」が大好きな友人。
ロカ岬に彼女がこの先来ることはあるだろうか?
彼女がもしもこの先足を踏み入れることがなくても
その私が彼女の代わりにここに来たということにしたらどうだろう?
そう思い、ポルトガルのお土産に、彼女のぶんの最西端到達証明書も発行してもらった。
彼女にとって、ロカ岬の写真と証明書が、よいお土産になっていればよいのだけれど。
これは正真正銘、ロカ岬に訪れた証なのだから。
彼女もまた、少しでもロカ岬の風や空気、海の音を感じてくれていたらいいな。
バス停に徐々に人が集まってきた。
バスの到着は近い。
これでロカ岬ともさよならだ。
この場所とのお別れはなんだか感慨深い。
さよならロカ岬。
次に会うことはあるだろうか?
また来ることが出来たなら、そのときはどんな想いで再会するのだろう。
世界史の教科書で習った大航海時代、
そこに登場した偉人たちは、その時代に本当に存在していて
目の前に広がるこの大西洋を、新大陸を目指して冒険にでた。
教科書で数ページしか触れられていないその歴史には
多くの思いや苦労、たくさんの人生が関わっていることを
この地の果てで感じることが出来たように思う。
全ての歴史は本物で、わたしはその中のちっぽけな生き物にすぎないと
バス停に向かう途中、最後にもう1度だけ岬を振り返って、
風を全身で受け止めて思った。
そして、最後にと、ロカ岬の写真を一枚撮った。




