タクシー運転手の災難な日*10/2
その後、メトロに乗ってドウロ川北岸のポルトの街に戻ってきたわたしたち。
サン・ベント駅のよく仕組みのわからないコインロッカーに、重かったポートワインやらその他荷物を置くことができたため、ウィンドーショッピングを楽しむこととした。
夕刻になったため、そろそろ駅に戻って荷物を取り、ホテルにチェックインするか、と思った矢先、
ポツポツ…
ザー!!!!!
本格的な雨が降りだした。
突然の雨に大慌て!!!
しかもコインロッカーに傘も何もかも置いてきてしまった!なんということだ!
なんで傘を置いてくるのー!!!
とお互いにお互いを責め合いながら走る走る、雨の中を走る。
咄嗟に唯一の荷物であった『地球の歩き方』を頭にかぶってみるわたし。
そんなことをしたせいで、余談ではあるが我が家にある『地球の歩き方』は見るも無残にボロボロである。
このガイドブックを見るたびに、この日の激しい通り雨を思い出す。
世界にひとつしかない、旅の思い出付きガイドブック。
なんとかサン・ベント駅に再び戻ることができたが、わたしたちは全身ずぶ濡れ。
絞ったら水が出てきそうなぐらいのずぶ濡れ、しょぼん。
走って疲れてずぶ濡れのところに、沢山のポートワイン。
重すぎる。
さて、わたしたちがポルトで一泊するホテルの名は『メルキュール・バターリャ』
地図で見ると駅からとても近いのだが、ここで気をつけるべきなのは地図ではわからない坂道。
地図では駅横の細い道をまっすぐ行くだけでホテルに着けるように見える。
確かに間違ってはいないのだが、実際にその道を見て驚く。
開いた口が塞がらないほどにとてつもない坂道。
たとえ荷物がなくたって登れない。
さすがポルト、坂の街。
ここで我ら2人ともギブアップ。
直線距離は非常に近いのだけれど、あえて大回りして、タクシーで大通りからホテルを目指すことにした。
これほど坂が恨めしいと思ったことはないだろう。
さあタクシーを拾おう、と思ったがサン・ベント駅、タクシーが止まっていない。
しかしよく見ると一台だけ車が。
高級ベンツ、中は革張り。でも確かにタクシーと書いてある。
ああもうお金なら払いますからとにかく乗せてください、と藁でも縋る思いでタクシーに乗り込む。
『メルキュール・バターリャ』
と行き先を告げるとタクシーは進みだした、やっと落ち着く。
タクシーの運転手はとても仕立てのよい服をきた若い青年。
革張りのこれまた仕立てのいい座席が濡れてしまうのがとても申し訳ない。
バカみたいに大回りをしてしまったが、とにかくタクシーのおかげでやっと目指すホテルに着くことができた。
ああありがとうー、と指定された金額(素晴らしく高級な内装と外装だった割に料金は普通)を払おうとして
財布を開ける。
あ…小銭が全然ない。
非常に申し訳ないけどしょうがない、と大きな額のお札を渡す。
すると、「ノー!ノー!」
受け取ってもらえない。
え!!だめなの?
お釣りがないとのこと。
ガガン!どうしよう。二人で顔を見合わせるが、見合わせたところで小銭が出てくるわけもない。
とにかく持っているお金をすべて見せてみろ、と言われたので
ああ全部盗られるのかしら、怒られるのかしら、とうとう旅先でトラブル発生か、と
びくびくしながら手持ちのお金を見せてみる。
タクシー運転手、大きくため息。
ああこんな異国の地で、こんな好青年に大きなため息をつかせてしまった、こんなに落胆させてしまった。
その顔は呆れ顔。
久々にこんなに呆れられたように思う。
もしかしてこのまま降ろしてくれないのかしらと絶望的になっていたそのとき
なんと!
唯一のわたしたちの手持ちの小銭、1ユーロと何セントかを青年は手に取り
「もうこれでいいよ、さあ降りた降りた!」と我らを降ろして行ってしまった。
素敵なベンツが走り去るその姿を見ながらポカンとするわたしたち。
あれ、タクシー代、1ユーロちょっとで済んじゃった…。
実際の金額の何分の一だったかな、ほとんどタダですんでしまったようである。
普通お金多く取ったりするものじゃないのだろうか。
呆れた挙句、おまけしてくれるタクシー運転手。
なんとどこまでポルトガル人はいい人たちなのだ!!
ベンツに乗り込むときに、ぼったくられたらどうしよう、なんてことを一瞬考えていた私を激しく呪った。
次回からは、タクシーに乗る際にはきちんと小銭を用意しておこうと誓った雨の夕刻。
好青年なタクシー運転手を呆れさせてしまったことにとても悲しくなったが、
泣きたかったのはきっとタクシーの運転手だったに違いない。
ほとんどタダ乗り、そのうえ素敵な座席もややびしょ濡れ。
そんなこんなでやっとたどり着いた『メルキュール・バターリャ』は小綺麗でとても快適なホテル。
約束のディナーの時間までは少し余裕があったので、早速熱いシャワーを浴びて生き返る。
部屋の片隅には、びしょぬれになったジーンズと一緒に、
ずぶ濡れでふにゃふにゃ、無残な姿の『地球の歩き方』が干されていたのであった。

