風に吹かれながらぼくたちは空を見た



高校2年生の、夏の終わり頃。

バイクを買った。


学校帰りに、

自転車屋さんに1台、使い古されたバイクがおいてあった。

スズキのバーディーというバイクだった。


友達とふたりで、

バイクほしーよなーって、

ポチポチ歩きながら話してたおれたちは、

完全にその場のノリで、

おじちゃんに声をかけ、

「このバイク、いくらですか?」

そしたら返ってきた言葉は、

「3万円かな。」

、、かな。って!


でも、なんだか面白くなっちゃって、

「おまえ、いくらもってる?」

みたいな話になって、

金集めてバイクを買ったんだ。

親にも内緒で。


免許はなんとか取ってた。

一緒に行った友達は、1回目で受かった。

おれは落ちた。

その帰り道の、長いこと長いこと。

火曜日が免許試験日で、

「誰でも受かるよー。」

と言われていた原付免許。

結局3回落ちて、最後は必死だった。


でも、4度目にして無事合格し、

(さっきも書いたが、火曜日が試験日で、

火曜日は4週連続、学校をサボった。
火曜日しかなかった家庭科の成績が1になり、

夏休み、家庭科室を掃除しに行ったっけ。

でも結局、チクショーとか言って、

先生と、マジックリンのかけ合いとかしてた。

なにやってんだか。)

免許を大切に財布に入れて、

バイクほしーなーって思ってた。


そしてやっと買えた、スズキのバーディー。

新聞配達のにーちゃんがのってる、あんなかたちのバイク。

よく名前をきく、「カブ」ってホンダのバイクだと思ってたら、

ホンダじゃなく、スズキだった。

おれは、そんなところも好きだったけど、

友達にはよく、カブもどき!とか、言われた記憶がある。

でも、そんな風に言いながら、みんなで笑ってた。

バーディー。


たくさんの思い出が、そのバイクとはあるんだけど、

なんとなく、最近思い出した思い出があるんだ。




はじめて、ひとりで遠くまでバイクで旅をした時のこと。

もともと、バイクを何でほしかったかというと、

旅をしたかったからだったんだ。


そして、初めて旅をしたのが、

札幌から、海沿いをずっと走り、

小樽や余市をぬけて、積丹半島の美国って町を目指した旅でした。

朝日を見たくて、、とかでもなく、

親にも内緒だったから、

夜おそくに、こっそり出発して、朝には家に戻るつもりだった。

でも、美国に着いた時点で、ヘトヘトだった。

どのくらいかかったんだろう、ゆっくりゆっくり、、

6時間くらいは走ったのかもしれない。


そこで決めた。

このまま帰っては、絶対途中で運転しながら寝る!笑

危ないから、どっかで野宿しよう。

、、しかし、夏の終わりの北海道は、寒い。

朝方なんか、海沿いの町だし、10度前後だったと思う。


外で寝るのはやめた。

どっか、民宿の玄関や倉庫で、安く寝かせてもらえないだろうか、、

一か八かで、そんなことを考えた。

でも、夜でもやってるお店なんかなく、

海の波の音と、風の音だけが、寒くて震えてた自分の耳元で、

「なにやってんだか。」

と聞こえてくるようだった。

でも、、なんかドキドキしちゃうんだな。


細い道を、いくつか走ってると、

真夜中なのに、にぎやかな声が聞こえてくる家が、

1軒だけあった。

名前は忘れちゃったけど、、民宿だった。

勇気を振りしぼって、玄関を開けて、

「すみませんー!」

と、声をかけてみた。

それでも、中の騒いでいる声のほうが大きくて、

弱っちー声なんか、聞こえてなかった。

「す、、すーみーまーせーん!」


そしたら、大きな声を出しすぎたか、

中の声が一気に静かになり、

「、、はい?」

と、若いお兄ちゃんが出てきてくれた。

そこで思った。

おれはこの状況で、なんて説明すればいいんだ!


ありのままを話した。

バイクで旅して、外で寝ようと思ったら寒くて、

お金も2000円くらいしかなくて、

どっか、玄関か倉庫ででも、、

自分でも、いくら高校生とはいえ、怪しいよなこれ、と思いながら。


そしたら、そのお兄ちゃんは、爆笑して、

「まー、とりあえず入んなよ。」

と言ってくれて、中に入れてくれた。

中には、自分より年上のにーちゃんねーちゃんが、

真っ黒に日焼けした顔で、

日焼けではなく、泥やら何やらで、

真っ黒だったおれの顔を見て、ゲラゲラ笑ってた。


その集団は、スキューバダイビングのチームだった。

確か、バナナボートってチームだった。


1人くらい増えたってわかんないし、もう民宿の主人も寝ちゃったし、

今夜はこっそり、ここで寝ていきなよ!

そう言ってくれた。


何時間も1人で、しかも初めてのバイクの旅で、

ずいぶん久しぶりに人と話した気がしたのと、

あまりにも優しかったみんなの顔が、

本当にうれしくて、泣きそうになったけど、

でも、なんだか楽しくてたくさん笑った。


いろんな、海の中の話を聞かせてもらった。

夜光虫って海の中の生物を、みんなで見に来たんだよって、

教えてくれた。

まったくわからないことだらけだったので、

いろんな質問をしたけど、ひとつづつ優しく教えてくれた。

すごくかっこよかった。

ひとつのことに熱中して、バカみたいに笑っては、

真剣に海でのことを話してる人たち。


そして、もうそろそろ寝るかーっつって、

男子と女子に別れて、ざこ寝した。

電気を消しても、寝れなかった。


この世の中には、いろんな人がいる。

すごいな、、すごいなあ、、


そして、なんだか空がうっすら明るくなってきて、

不安になってきたことがあった。

民宿の主人に見つかって、

みんなに迷惑かけたくないなって気持ちが、どんどん出てきて。

こっそり、ふとんから出て、民宿を出ることにしたんだ。


誰も起こさないように、静かに静かにふとんから出て。

荷物を持って、、そして最後に手紙を書こうと思った。

ありがとうございます、から始まって、

そのときの思いを、真っ暗な部屋で目を凝らしながら、

まるで時間が止まった部屋の中にいるように、

夢中で書いた。


その手紙の最後の文章に、

「ぼくは、太陽族というバンドをはじめました。

まだ始めたばかりだけど、どこかで名前を見たら思い出してください。

いつかもっと大きくなって、またどこかで会えるよう、がんばります。」

遠い未来の自分への、楽しみな宿題を作るような気分で、

そんな文章を書いたんだ。

そして、朝方の海沿いを、

「ねるなー!おれ、ねるなー!」

と、くっつきそうなまぶたを、

こらえて叫びながら、札幌まで帰りました。


それが、初めてのバイクでの1人旅でした。


なぜだか、そんなことを、最近思い出してて。

それから旅が好きになり、バイクやヒッチハイクで、

たくさん旅をしました。

ツアーが好きなのも、そんな気持ちからもあるんだ。

そして、太陽族が好きなのも。


まだ、残念ながら、あの日会った、

スキューバチームの人たちには会ってないけど、

きっと、この季節は、どこかの海を泳いでるのかもしれない。

いつか会えたらいいな。

そして、ありがとうが言えたらいいな。


そんな、夏の思い出でした。


花男★