「帰り道で既に……」


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ここ一年ほど不定期に整體指導している方。

待望の妊娠をされて、さぁこれから!という時に医師から「心音が聞こえない」と告げられ、流産への流れになったそう。


病院の指示通り、経過観察で過ごしていたが、どうも不全流産の様子。


「胎嚢の手術は嫌なんだけどなぁ」


ご本人も医療従事者なので、そのおっしゃる意味は深い。


「まぁ、ダメ元で良いなら……」


とある操法を行い、その後過ごし方を指導する。さて、こちらも経過観察と決め込む。


 ・・・


後日、様子を聞く機会があり。


「帰り道で既に異変を感じて、そのまま……」


とお手洗いで娩出したと。その後、病院に行って確かめたが、子宮はきれいになっていた事が確認された。


「全て自然に終える事ができました。」


と感謝され、


「この事に気を落とさずに。流産と言えど、中途までは妊娠し、出産をしたのだから。体験を経て、身体は必ず強くなっていく。この経験が、より健康で健全な妊娠、出産への足がかりになる。」


と、野口晴哉先生の受け売りをお伝えして、栄養指導を行った。


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今回は、昔にたまたま偶然に習った『堕胎の法』をかなり弱めに施して成果を得た。この法は、既に当時から禁術とされていて、私も一生使う事は無いだろうと思っていた。

しかし今回、ふと我が師の顔と共にこの操法が頭に浮かび、(そうだ!やってみるか……)


となった。習ってから20年近く経っているが、その間に積み上げてきたその他の整體指導の経験が、的確にその技法を選択させ、出力を調節させ、安心して経過を見守らせてくれた。


今は亡き師に、会ってご報告したい、と暫くぶりにしみじみと振り返った。