エメのジュアンにうっとりしていると彫像の足場に亡霊が現れます。ぬるっと。そう常に亡霊はぬるっといつのまにか登場するのです。
組立てられた大きな足場全体がしなるように大きく揺れるほどの勢いで亡霊はタップを踏みます。その音は闇の中迫る敵のようであり、打ちならされる号砲の戦火が近づく恐怖にも聞こえるのです。(『あの足場千穐楽まで持つかしら』と妙に冷静に見る自分がいたりして)
ステージは一気に戦場と化し鳴り響く銃声と迫り来る恐怖に混乱する兵士達の動揺怒号と緊迫感の中、ラファエルの悲痛なまでの歌声が響きます。仲間の死を目の前に仇討ちを誓うも戦い続けることへのジレンマ。いつ果ててもおかしくない己の死と背中合わせの中、遠い地にいる恋人への想い。砂嵐の荒れ果てた戦地で帰れるものなら帰りたいと叫び続ける兵士達とラファエルの届かぬ歌声は鳴り止まぬ銃撃の渦へ飲み込まれるのですが、そこへ登場する真っ赤なドレスの女性アンサンブルの激しいダンスに目を見張ります。
1幕冒頭でジュアンのバックで舞っていた真紅の薔薇達は兵士が流す真っ赤な血飛沫となり、渦巻く戦火となり彼らを襲います。殺される恐怖より殺すことへの抵抗感で身動きができない兵士達は次々に標的となり息絶えてゆきます。兵士達の背中に馬乗りになってドレスで覆うアンサンブルの女性たち。美しいドレスが溢れる大量の血となって染める演出は見事です。
サークル状にラファエルを囲みドレスを左右に揺さぶりながら燃立つ戦火を表現する美しさと激しさ。炎に沈んでいくラファエルが『マリア!』と叫びながら消えてゆくシーンは圧巻です。
多くの仲間を失い傷つき命からがら帰国したラファエルを待っていたのはあまりにも悲しく残酷な現実だったのです。