俺たちが南雲の口から聞かされたのは、世にも恐ろしい驚愕の事実だった―――
「ですからね、元々、風間さんが狙っていたのは僕だったみたいなんですよ。それがある時、ストーカー被害にあっている雪村さんを見かけて、僕と勘違いして助けたみたいなんです」
「はぁぁあああああんん?」
「な・・・んだっ?そりゃ???」
俺と新八っつぁんは顔を見合わせ、そしてまた南雲を見た。
すると南雲は、外国人がよくやる感じで目を閉じて両手を腰あたりで広げて首を左右に振った。
てか、なんで「ふぅ、どうしてわからないんですかねぇ?」みてぇな顔すんだよ!
そりゃどー考えたって理解しろっつー方が無理だろ!
こんな事に踊らされてた俺たちや雪村千鶴がバカみてーじゃねーかっ!!!!
「じゃあなんだ?あいつはお前ぇを嬢ちゃんだって思ってたって事か?ん?あれ、違うな・・・なんかこんがらがって、わかんなくなっちまったぞ?」
ほらー、新八っつぁんが頭を抱え込んじまったじゃねーかよー。
「えっと、風間さんは最初僕の名前も何も知らなかったんですよ。そんな頃に雪村さんを助けて、そのストーカー行為っていうか・・・かなり積極的なアプローチっていうか」
「いやいやいやいやいや、かんっぜんに、やってる事はストーカーで変態だろ」
「ま、まぁ、要するに僕の名前が雪村千鶴だって思い込んでたみたいなんです。だから手紙とかを郵便受けに入れるのも、疑問を持たなかったみたいです」
つーかさ、お前は俺たちが雪村の部屋に行ってる間に風間に遭遇して、そこで謎は解けたかもしんねえけど、んな説明を受けてそれですんなり「はいそーですか」ってなっちまう訳ぇ?
うっわー、ムリムリムリムリ、理解できねぇぇぇー!!!
それにお前、やっぱ普段からガッツリ女装とかしてんだ?
しかもさ、なんかちょいちょい南雲が風間をかばってる的な感じ出して来てねえか?
え、なに?そういうこと?
そろそろ俺もパニックになりそうになった時。
「おい、お前たち我が妻と何をコソコソしておるのだ」
あ、一番のバカ野郎がこっちに近づいて来た。
「お、俺はもう帰るからなっ!」
怒り疲れた土方さんは、それでもまだプンスカしながら運転席に乗り込んで、俺たちを置き去りにしてさっさと発進しちまった。
「ちょっ、おいっ!土方さんっ!」
「待ってくれよ、おいって!」
50mほど全力で走って追いかけたが、車は停車する気配もなく、とっとと曲がり角を曲がって行った。
「はっ、はぁっ、はぁっ・・・ふ、ふざけんなよー、歳三っ!陰険!」
「はぁ、はぁ・・・バーカバーカ!あんたの俳句、へたくそなんだよーっ!」
完全に聞こえないのを良い事に、俺も新八っつぁんも息を切らしながら大声で思う存分土方さんを罵った。
さて・・・。
「はぁっ、はぁっ・・・おい、どうする?新八っつぁん」
「はぁ、はぁ・・・どうするったって、おめぇ・・・どうしよ?」
はぁぁ・・・と、あがった息に混じらせて溜息を吐いた俺たちは、とぼとぼと南雲と風間の方へと歩き出した。
「で、この風間って野郎がとんでもなく阿保で変態だってのは分かったぜ」
しかし、雪村の家に不法侵入した事は許されない。
被害者である彼女にも事情を説明して、警察へ通報してもらうのが最善かと思われた。
が、しかし―――
事の成り行きを電話で伝えると、彼女は風間を警察に突き出すつもりはないと言ったのだった。
どうしてだよっ?って、何故か憤りを感じた俺は雪村にきつく言っちまったけど、勘違いでストーカー行為されたけど最初に助けてくれたのは事実だし、それにもう自分に被害が及ぶ心配がないと分かったから、という事だった。
腑に落ちないけど、本人がそう言うんなら俺たちが訴える事もできねえし、仕方ないかって事になった。
なんか人が良すぎんだよなー、この依頼者。
南雲も南雲でなーんか風間に対してまんざらでもねぇって感じだしよ。
風間もこいつが実は男子高校生だって知ったみてぇだけど、なんかあんま関係ねぇみたいだしな・・・。
「あぁーあ、アホらし。帰ろうぜ、新八っつぁん」
俺は、まだこんがらがった頭をぐしゃぐしゃと掻きむしってる新八っつぁんの腕を掴み、駅の方へと歩き出した。
背後から、南雲が俺たちに向かって何か言ってた気がするけど、怒りで昂った俺の耳には何も届かなかった。
最寄り駅へ向かう商店街を歩きながら、おさまりきらないモヤモヤを新八っつぁんにぶつけた。
「なぁ、これって依頼料は誰から取ったらいいんだよ?」
「さぁーな」
「さぁーな、じゃねえよ!雪村千鶴に払わせるのはあんまりにも酷じゃんかよ」
「んじゃあ、南雲か風間にでも払わせるか」
「そーだよ、そーするべきだ!」
「しっかしよ、とんでもねえ結末だったな」
「ほんとだぜ、ありえねーっつーの」
そんな会話をちょうど居酒屋の前を通りかかった時にしてたもんだから、新八っつぁんの提案で酒でも飲んで憂さ晴らしてから帰ろうぜって事になった。
そんで俺たちは相当ぐでんぐでんになるまで酒を飲んだ。
俺が呼んだのか、新八っつぁんが呼んだのか覚えてねえけど、何故か左之さんと総司も居酒屋に集まっていた。
「くっくっく・・・さずが南雲薫」
「バァロォォ、笑いごとじゃねえぞ、総司ぃ」
「っんとだよ、1週間なんらったんらっつーの!」
「まぁまぁ、落ち着けって二人とも。結果的に無事解決したから良かったじゃねぇか」
今回の依頼の結末を話すと、他人事だからって総司はずーっと笑ってるし、左之さんだって俺たちが荒れてるのが面白いらしく、さっきっからニヤニヤしてやがるし。
「そんなことよりも、ら」
「おう、どうした平助。そんな事より、なんだぁ?」
どんっ!と勢いよくテーブルを叩きつけて俺が立ち上がると、煽るような口調で左之さんがたきつける。
「あの土方の歳三めぇー、おれぁ、許さねえぞぉぉ」
「そーだっ!俺たちを置いてけぼりにしやがってよぉ」
「こんな事になるんらったら、伊東さん作戦でいきゃぁ良かったじゃねえかよー」
「そーだそーだーっ!」
「そしたら、あの冷血土方が伊東さんの餌食になってよぉ」
「そーだそーだーーーっ!」
「おい、新八・・・お前さっきからそーだそーだしか言ってねえじゃねえか」
「るっせえ、左之」
「はいはいはいはい、新八さーん、ほら、ぐぐっと飲んで飲んでー」
「おぉう、総司ぃ、悪ぃな」
こんな調子で飲み続けた俺たちは、いい加減うるさいからと店を追い出されてしまった。
俺のこの日の記憶はここまでで、こっから後はぜんっぜん覚えてねえ。
次の日の朝、目が覚めたら俺と新八っつぁんは事務所のソファ(から転げ落ちた状態)で寝てたんだけど、そこには左之さんと総司の姿はなかったんだ。
んで、こっからが最悪なんだけど、泥酔した俺と新八っつぁんで土方さんのデスクにあった色んなもんに落書きしちまったみたいで・・・。
調査資料とか、土方さんの私物のあちこちに「ナルシスト野郎」とか「女たらし」とか「バカ」とか「うんこ」とか書いちまったんだ。
被害は土方さんだけでなく、一くんが事務所に置いてる常備薬は全部「石田散薬」って書き換えてあったり。
これはどう見ても新八っつぁんの字だったんだけど、土方さんの悪口のうちのいくつかはどう見ても総司の書いた文字の気がしてならねえものもあった。
つーか、ほとんど総司の仕業じゃねぇの?
けど結局、酷い二日酔いで使い物になんねえ俺と新八っつぁんはこの惨劇を片付ける事も出来ないまま、出社してきた土方さんにこってりとお説教を食らった挙句、今回の一連の依頼料を二人が肩代わりするっていう信じらんねえおまけ付きだった訳で。
―――と、まぁこれが俺のとある日の出来事。
あ、勘違いしないでくれよな、こんな奇妙な依頼や残念な結末がいつもって訳じゃねえから。
だからさ、なんか困った事あったらいつでも電話してきてくれよ。
まずはぶっきらぼうな一くんが電話に出るけどな。
-追記-
ちなみに後日、風間と痴話喧嘩したっつー南雲が依頼相談に来たけど、ふざけんなっつって断ってやったぜ。
ざまーみろってんだ。
≪平助日記 end≫