平助日記3 | ぶーさーのつやつやブログ

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艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。




総司の話によると、依頼者の雪村千鶴にそーーーーーーーーーーっくりだと言う男子は「南雲薫」という名前で、現在男子校に通っている18歳だそうだ。

それはもう、瓜二つだと写真を見ながら総司は言ってたけどさ。
そうは言っても、男子高校生と20代の女性がそっくりだなんて・・・実はどっかで血が繋がってたりして、なんて思っちまう。

総司が一体その子にどんな貸しがあるのかはさておき、女装が趣味だというその男子に雪村千鶴を装わせるっていう作戦で行く事になった。

土方さんはあからさまに胸を撫で下ろしていたけど、何故か山南さんはちょっと残念そうな顔をしてた。
そんなにも伊東さん作戦でいきたかったのかよ?




いろいろ話し合って、結局は総司が提案した「南雲薫女装作戦」を決行する事になった。
その作戦の中身はこうだ。

これから2日に1回、決まった時間に依頼者の雪村千鶴がこの事務所を訪ねて来る。
そこで、先に待っていた南雲薫と洋服を交換してなりすましてもらい、事務所からマンションに帰宅するまでの間に風間って野郎がコンタクトをしてくるのを待って、後をつけた俺たちが取り押さえるって算段だ。

事務所に来る日以外は、できるだけ電車や徒歩での外出を避けてもらい、会社へもタクシーで通勤してもらう事になった。
幸い、依頼者が職場から2駅ほどの場所に住んでいたこともあり、出費の面でもあまり負担がかからない。


雪村千鶴の住むマンションは、正面入り口から2度オートロックを解除して奥へと進み、突き当りのエレベーターで地下1階に降りると駐車場へつながっているらしいので、何もなければその地下駐車場で南雲薫と合流してから雪村千鶴は自宅階へと戻ることになる。
そして南雲薫は俺たちの車に乗せて地下駐車場から脱出するのだ。


そして、この作戦で俺と土方さんが事務所から出た後の南雲薫の行動を追う事に、新八っつぁんが車で雪村千鶴を駐車場まで乗せてくる役目に配属された。

作戦を開始して1週間、何事もなく過ぎていった――――



「なぁ、その風間ってやつ・・・依頼者の勘違いじゃねえのか?」

俺は南雲の後を、土方さんと追っている最中にそう切り出した。

「んん・・・そうだなぁ。まさか、俺たちの存在に気づいてるって訳でもないなら、ここまで何のアクションもねえとな・・・」
「だろぉ?大体さー」
「平助っ!」

何かに気づいた土方さんが、潜めた声で俺の言葉を遮った。
視線の先を追うと、駅の改札を出た南雲に近寄る男の姿が見えた。

まさか、あれが風間かっ!?

俺たちは少し急ぎ足で、それでいて南雲に近づきすぎないように改札を出た。

すると、近づいた男は南雲に向かって小さく会釈してその場を立ち去って行った。
その時に手元に地図らしきものを持っているのが見えたので、どうやら道を尋ねただけらしいことが分かった。


「なぁんだ、道聞かれただけか」
「あぁ、そうみたいだな」

南雲はチラっとこちらを見て、すぐにマンションのある方角の商店街に向けて歩き出した。
口元に笑みなんか浮かべやがって、気味の悪りぃ奴だぜ、まったく。


10メートルぐらい、南雲の後を歩きながら、今までずっと気になっていたことを土方さんに聞いてみる事にした。

「なぁ、そういえばあの依頼者さ、なんで風間ってやつの写真なんか持ってたんだ?」
「あぁ、それか」
「だってよ、普通ストーカーつったら被害者の写真を勝手に撮るとかなら考えられるけど、その逆だろ?」
「いや、なんかな郵便受けに手紙が毎日投函されているらしいんだ。しかも切手も貼ってなければ当然消印もない。てことは、だ」
「うわぁー、実際に風間って野郎が投函してるって訳かぁ」

考えただけでもげんなりしちまうぜ。

「って事だろうな。で、その手紙の中に自分の写真を毎回入れて来るらしいんだな」

土方さんも妙な表情でポツポツ語った。
なんかストーカーっていうより、単なるアブナイ奴じゃねのか?それって。

話してるうちに、今日も何事もなく依頼者雪村のマンションに到着した。

マンション前を通り過ぎるふりをしながら、エントランスに消えてゆく南雲の後ろ姿を確認した。

「今日もなんもなかったな」
「そうだな、手紙も最近は投函されなくなったらしいからな」
「一過性のものだったのかな?」
「どうだろうな・・・まだ安心はできんと思うが、俺たちがこうやっている事で依頼者が安心できるのならそれでいいのかもしれんな」
「どーせ駐車場の方も、大丈夫だろうしな」

俺はそう言って、マンションの角を曲がった場所にある駐車場出入り口から南雲を乗せた新八っつぁんの車が出て来るのを待っていた。

1、2分して新八っつぁんの運転する車が出てきた。

出口でいったん停止して、俺と土方さんが後部座席に乗り込むと車は南雲の自宅方面へと向けて走り出した。


「今日も無事で何よりだぜーっと」

新八っつぁんが呑気な口調で言って運転席の窓を全開にすると、初夏の生ぬるい風が車内を駆け抜けた。
乗り込むなりすぐに土方さんが吸い始めたタバコの煙が、俺にめがけて流れて来る。

おっと、すまんと土方さんは自分の横の窓を開け、煙が外に流れるように煙草を右手に持ち替えた。


「南雲、今日もすまなかったな」

土方さんが声をかけると助手席の南雲は振り返って微笑んだ。

「いいえ、趣味の女装が堂々とできるんですから・・・僕は何日続いたって構いません」
「そ、そうか・・・は、ははっ、ははは・・・」

予想外の答えに土方さんが苦笑した。
俺も新八っつぁんもつられて苦笑していると、

『ピリリリリリ ピリリリリリ』

誰かの携帯の呼び出し音が鳴った。

「俺だな」

土方さんがポケットから携帯を取り出して画面を見るなり、

「新八!引き返せっ!」

大きな声でそう言って、電話に出た。

「へっ?」

運転しているから、顔は前に向けたままで新八っつぁんが聞き返す。

「雪村さんかっ!?どうした?何があった?」

慌てた土方さんの声で悟ったのか、新八っつぁんは国道の信号でUターンして雪村のマンション目がけてアクセルを踏み込んだ。

エンジン音が唸りを上げて、隣で会話している土方さんの声もよく聞き取れなかった。

「わかった、すぐに部屋に行くからそこから動くなよ!」

電話を切ってすぐに、チっと舌うちをした後

「誰かが部屋に侵入した形跡があるっぽいんだ」

苦々しい顔で窓の外を睨みつけた。

「げっ!マジかよ?」
「彼女はトイレに入って鍵をかけて、そこから電話してきたらしい」

今度は新八っつぁんにも聞こえるぐらいの大きい声で言った。

「風間、なのか?」

すさまじいエンジン音に負けないようにと新八っつぁんも大声で問い返す。

「いや、風間かどうかはわからんが、間違いないだろう」
「でもま、気づいてトイレに逃げ込んだんなら安心だな」
「あぁ、しかしまだ部屋の何処かにいるならとっ捕まえてやる!」

雪村のマンションからはまだそんなに離れてはいなかったから、俺たちはすぐに戻って、念のためにと土方さんが預かっていた部屋の鍵で彼女の居住階へと上がって行った。

マンションの10階に位置する部屋だから、窓から逃げられるという心配もないので、俺たちは勢いよく部屋へと駆け込んだ。

まずは俺が入り口付近のトイレのドア越しに雪村千鶴に話しかける。

「俺だ、藤堂だ、大丈夫か?」
「・・・は、はい・・・大丈夫です」
「部屋の中に誰もいないか確認出来るまで出てくるんじゃねえぞ!もうしばらく待っててくれ!」
「わ、わかりました」

返事を聞いて、俺も土方さんたちが入って行ったリビングへと向かった。
すでにリビング、キッチン、ベッドルーム、ベランダ、バスルームを土方さんと新八っつぁんが見て回った後だったが、誰も居なかったらしかった。

俺はまたトイレの前へ行ってドアをノックする。

「おい、出てきても大丈夫だぜ」

ゆっくりとドアが開くと、小刻みに震えながら半泣き状態の雪村千鶴が出てきた。

「あ、ありがとうございました・・・」





南雲薫をマンション前に停めた車に残したままだったが、俺たちは彼女が落ち着くまで一緒にいる事にした。








≪平助日記4へ続く・・・≫