一体何を考えているのか。
そんな事を思っている僅かな間にも、報道陣たちは塊になって私達の方へと駆けよって来る。
「ひ、一橋さんっ!」
レポーター風の男性が方手に持ったマイクを慶喜さんに突き付ける様にしながら大声で呼びかけた。
大きなカメラ機材を肩に乗せながら走って来たカメラマンたちが私達を囲んだのを見計らって、慶喜さんは突然、私をぐっと抱き寄せた。
「ちょっ、け、慶喜さんっ!」
すっぽりと腕の中に包まれて、逞しい胸に顔を埋めながら私は声で抵抗した。
周りがざわついてる声が聞こえる。
その女性は?
高野さんとの関係は?
など、次々に色んな質問が飛び交い、スチールカメラが連続でシャッターを切る音がした。
慶喜さんは何も言わずに腕に力を緩め、すっと指先で私の顎を掬いあげて・・・
「・・・っ!!!!!!」
突然唇を重ねられて、目から火花が飛び散りそうになる。

周囲のざわめく声が一層大きくなった。
「ぅんっ・・・んっ、んっ、んんんんっ!!!」
やがて慶喜さんの舌が口内に侵入して、“キス”なんて可愛らしいものではなくなったそれに対し、私が必至に喉を鳴らすとようやく私の唇を解放してすぐに、
「と、いう訳で俺の恋人はこの女性なので・・・ちゃんと撮ってくれたよね?」
ゆったりと、でもはっきりと大きな声で、自分に向けられたカメラ1台1台を見渡して慶喜さんが答える。

「た、高野ヨウコさんと二股と言う事ですか?」
さすがレポーター達もプロだ。
一瞬、全員が息を飲んだ様に静まったけれど、すかさず質問を浴びせ始める。
「・・・うんーと、誰だい?その高野ナントカって」
わざと惚けて曖昧な笑顔を浮かべ、適当に答える慶喜さん。
方腕で抱き締められたままだった私は、すぐ横のその綺麗な顔を見上げて胸を高鳴らせた。
私が愛した人は、やっぱりいつだって飄々としながらも切れ味の鋭い刀のように明晰で、美しかった。
私の選択は間違っていなかったのだ、そう思って心の中がどんどんと温かくなってゆく。
「・・・えっと・・・一橋さん・・・?」
「ど、どういう・・・?」
レポーター達のマイクを持った手が次々と下げられて、表情には困惑の色を浮かべていた。
「あああ、思い出したよ。ストーカーみたいな真似をして、俺達の愛の巣の隣に引っ越して来た人の事かな?」
毒を含んだ言いまわしに、レポーター達は言葉を失った。
「・・・とにかくそういう事なので、よろしくね」
慶喜さんは、行こう、と小声で言って私を見下ろし微笑んだ。
エントランスの方へ向かって手を繋いで歩き出した私達の後を追ってくる人は誰一人といなかった。
「あーすっきりした」
エレベーターに乗り込んで2人きりになると慶喜さんはあははと声を上げた後、急に真顔になって
「ね、さっきのキスで・・・」
腰をぐっと私の腿に押し付けて耳元で甘く囁いた。
「こんなになっちゃった・・・しよ?」
≪慶喜編7へ続く・・・≫