慶喜編3 | ぶーさーのつやつやブログ

ぶーさーのつやつやブログ

艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。

その次の日、昼間お買いものからマンションに戻った時のエレベーターホール。


「あの・・・こんにちは」

ふいに声を掛けられて振り返ると、そこにはすらっとスタイルの良い女性が立っていた。
大き目のサングラスで小さな顔はほとんど隠れていたけれど、それでも目を引く顔立ちなのがわかって、私はなぜか緊張した。

ミニスカートから惜しげもなく出てている足は白く、細く、手入れが行きとどいているのが一目見ただけでもわかる。


(モデル・・・さんかな?なんか見た事あるような・・・)


あまりじっくりと見るのも気が引けて、視線を彷徨わせながら軽く会釈を返した。

「こ、こんにちは・・・」

こうして慶喜さんのマンションに出入りする事になって半年が過ぎていたけれど、プライバシー重視のこの高級マンションは、塔と階によってエレベーターが何機にも分かれていたので他の住人と顔を合わせる事もほとんどなかった。

すぐにエレベーターが開いて私が先に乗り込むと、彼女は紙袋で手が塞がっている私をチラっと見て尋ねる。

「何階ですか?」
「あ・・・すみません・・・15階です」
「・・・はい」


彼女はさっきまで柔らかい表情だったのを一変させて、きゅっと口元を引き結んだ。


(・・・ん?なんか、変な感じ・・・)


15階のボタンを押したまま、他の階を押さないところを見ると、同じフロアの住人のようだった。

慶喜さんの部屋のある15階には3LDKの部屋が2部屋しかない筈だから、昨日引っ越して来たと挨拶に来た部屋の住人なのだろう。

私は、最初とは別人のような彼女の態度に少し動揺してしまった。
なんだか嫌な予感がして、早く15階について欲しいと顔を伏せたまま息を潜めた。

エレベーターが開き、さっと一礼して先に降りる。

部屋に入るまでの間も、なんだか背中に彼女の視線をぶつけられているような気がして、私は足早に玄関へ滑り込んだ。


(なんだったんだろう、さっきの・・・急に態度が・・・変わった?)


(ううん、初対面の人だし・・・気のせいだよね)


抱えていた紙袋をキッチンカウンターに下ろし、そう自分に言い聞かせたものの


(でも、昨日の慶喜さんが言ってた不審者といい、さっきの女の人といい・・・)


一見、なんの結びつきのない二つの出来事が気にかかり、しばらくその場に立ったまま動けなくなってしまった。







その日の夜、慶喜さんはいつもより早く帰宅した。

「だからぁ、知らないんだってば・・・なんかの間違いだって」

珍しく語気を強めて電話をしながらリビングに入って来た。
慶喜さんがこんな感じの口調の時は、だいたい決まって相手は秋斉さんだった。

私の心配そうな視線に気づいて、携帯を耳にあてたまま口の形だけで「だいじょうぶだよ」と伝えて微笑む。


「うん、うん・・・だからさ、名前聞いても全然わからないよ」

段々と苛立たしそうな様子になって、私にそんな自分の姿を見せまいとリビングから自室へ向かって出て行く時。

「名前と顔が一致しないんだよねぇ、高野ヨウコ・・・だっけ?」


(・・・・・・えっ!?)


その言葉にどきっとして私がソファから立ち上がると、慶喜さんはもうリビング出て行ったあとだった。

どくどくどくどく、心拍数が一気に早まる。

「・・・高野、ヨウコって・・・昼間の・・・」

慶喜さんが今、口にした名前で思い出した。


昼間の女性。
私がこの部屋の住人だとわかった途端に態度を変えた、あの女性。
人気女性誌で見た事あるモデル、高野ヨウコだ。


$ぶーさーのつやつやブログ


(なんで?どうして慶喜さんが電話で彼女の名前を・・・?)


どさりとソファに崩れ落ちるように座ると、電話を終えた慶喜さんが再びリビングに姿を現した。

「ごめんね、家では仕事の電話しないつもりだったんだけど」

詫びながら私の横に座って、前髪をそっとかき分けて額に軽く唇を当てる。

「・・・どうか、した?」

ぼんやりと考え込んでいた私の顔を心配そうに覗き込む。

「あ、い、いえいえ・・・なんでもないです。おかえりなさい」

今のも秋斉さんが相手だったなら、きっと慶喜さんがそう言ったように仕事の電話だったのだろうし。
気になる名前が出て来たけれど、それを追及するのも憚られて、私はぐっと喉元で言葉を飲み込んで慌てて笑顔を作ってみせる。

「そうだ、お風呂沸いてますよ」

慶喜さんの大きな瞳に見つめられると、心を読まれてしまうような気がする。
彼の視界から姿を消さないと、と背後に回り込みジャケットに手を掛けた。

「うん?あ、ありがとう」

私は必至に平然を装ったけれど、なかなか心臓は落ち着いてはくれなかった。


(慶喜さんが何も言わないんだもの、きっと・・・トラブルとか、そんなんじゃないよね?)


ざわつく心の中で大きく膨らんだ不安は、それから2日後。
最悪の形で私の耳に飛び込んできた―――






≪慶喜編4へ続く・・・≫