赤ZUKINちゃん8 | ぶーさーのつやつやブログ

ぶーさーのつやつやブログ

艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。

10分ほどすると、少女が浴室の方から暖炉のある部屋へ入って来た。
当たり前の事なのだが、先ほど龍馬が用意した着替えをきちんと着ていたので、少女を見た全員がほっと息を漏らす。


「そ、それじゃあ私はもう寝ますね」
沖田はぎこちなく言って、おやすみなさい、と少女に向かって会釈すると階段を静かに上って行った。
あんな衝撃的な場面を見てしまった後に、少女と何を話せばいいのかわからず、つい逃げるようにしてしまった・・・後はみなさんに任せて、今日はもう早く寝よう。

そう決めて、自室のドアノブを掴んだ。


パタン


沖田の部屋のドアが閉まると、
「わしも」
「僕も」
龍馬と翔太が同時にソファから立ち上がり、早口で「おやすみ!」と言って争う様にして階段を駆け上がった。


2つのドアの閉まる音が聞こえると、しん、と部屋が静まった。
パチッ、パチッと、暖炉の中で薪がはじける音だけが残る。



「ホットココアでも淹れようか」
慶喜は少女に向かってにっこりとほほ笑んだ。

「うん、ありがとう」
さっきまで翔太たちが座っていたソファに座って暖炉の方向へ手をかざす。
少女と入れ違いで慶喜はキッチンへと消えた。

「土方さん、飲み直すか?」
高杉はテーブルの上のブランデーボトルを持ち上げ、騒ぎの前まで呑んでいた土方のグラスに注ぎ、続けて自分のグラスにも液体を流し込む。

「あ、ああ・・・すまないな」
グラスを手に取り、ゆっくりと口へ運びながら自分と反対側のソファに座る少女をちらっと見た。

少女は暖炉の中の揺れる炎をじぃっと眺めていた。
仄暗い部屋の灯りと、暖炉から漏れる炎の灯りが少女の顔に妖艶な陰影を浮かばせる。
薪の爆ぜる音と共に小さな火の粉が上がると、ぴくんと反応してはまた大人しく暖炉を見る。

間もなく18歳という年齢から考えると幼すぎる言動もあるが、先ほど目にした裸体は十分に大人の女だった。そんな少女に大の男8人が踊らされている様に思えてきて、彼女は見ていて飽きないな、と自然と土方の口元が緩む。



グラスを持ってソファに深く身を沈ませた高杉もまた、同じように少女を見ながらさっきの浴室での出来事を思い出していた。

女の裸など見飽きるほど見てきた自分の慌てふためく姿を男たちに晒してしまった気恥ずかしさで、今更なんだか居心地の悪い感覚になる。
沖田や翔太たちのように自分も早く部屋に戻ってしまおうかと迷った時、

「わてもそろそろ、失礼しますえ」
秋斉が膝に置いていた本を持って、誰にともなくそう言って少女に向かっておやすみなさい、と声をかけて階段を上って行った。
それまで黙って部屋の隅に位置する小さなテーブル上にあるチェスと本を交互に眺めていた俊太郎が、ふわぁ、と大きなあくびをひとつして「ほなわても」と立ち上がったので、高杉はすっかりタイミングを逸してしまい、テーブルに置きかけたグラスを持ち直す。

「おやすみなさい」
少女は視線を暖炉から俊太郎に移し、ニコっと笑った。

「おやすみ」
少女を見返し優しく微笑んでから、土方と高杉にもお先に、と言って部屋を出た。

「・・・」
ここで俺もと立ち上がれば、残った2人に先ほどの出来事に動揺していると悟られてしまうのではないかと深読みして、こうなれば意地でも最後まで動くまいと決めた。

8人の中で一番の遊び人を自負していた高杉は、女性経験の少ない沖田や龍馬や翔太はまだしも、そこそこの経験を積んでいるであろう秋斉や俊太郎、土方、慶喜に対して、遊び人たる自分の平然とした態度見せるつもりになっていた。
そもそも皆はそんな事を気にも止めていないのかもしれないし、独りよがりのくだらないプライドかもしれないがなと、グラスの中のブランデーを一気に飲み干して、また注ぎ足した。





「ちょっと熱いから気をつけてね」
慶喜が湯気の立ち上るカップを2つ持って、キッチンから戻った。
コトン、とカップをテーブルに置くと、そのまま少女の隣に座った。

少女は慎重にカップを持ち上げ、ふぅふぅと息を吹きかけて口をつける。
「・・・あつっ」
ココアが思っていたよりも熱かったのでびっくりしてカップを離し、火傷しそうになった場所を確認する様に自分の唇をペロっと舐める。
慶喜は素早く自分のカップをテーブルに置いて、両手で少女の頬を包む。
赤くふっくらとした唇が少女自身の唾液で濡れて光っている。
大丈夫かい?と言いかけたが、ついそこに目を奪われて思わず言葉に詰まってしまった。


「・・・ごめんね、熱すぎたみたいだね」
なんとかそう言い、ふと目線を逸らして少女の頬から両手を離すと、テーブルに置いた自分のカップを掴んで考え込むようにカップの中の液体を見る・・・。


まるでいけないものを見てしまったような罪悪感がじわじわと込み上げて来た。
それは、たった今この少女に対して抱いた邪な気持ちが引き起こしたものかもしれない。
少女のとる行動のひとつひとつが何の思惑もない事だとわかっているから、尚更始末が悪いなと心の中で自嘲気味に笑う。

ふいに他の2人が気になって、目に掛った前髪の隙間から土方と高杉を見る。

どちらの男も少女を見ては酒を飲み、物思いに耽るような顔をしたかと思えば、また酒を飲む。
気まずいのは俺だけじゃなかったかと悟ると、急に可笑しくなってきた。

「くっくっくっく・・・」
笑いを殺したつもりが声に出てしまい、はっとして慌てて手で口を押さえる。

「???」
隣でちびちびとココアを飲んでいた少女が不思議そうに慶喜の顔を覗き込む。

「ごめんごめん、何でもないんだ」
少女に対してうまく取り繕ったが、向こう側の男たちの目を見る限りでは慶喜の心の内がバレていたようだった。






「・・・さ、もう寝よう」
土方が立ちあがった。
「そうだね、明日は早く起きておばあさんのお家に行って、暗くなる前には家に帰らないとね」
少女に言い聞かせる口調で微笑みかけて

「じゃあ、これは僕が片づけるから」
慶喜は小さな手の中のカップをそっと取り上げて、自分のものと土方のグラスと一緒にキッチンへ持って行った。

「おい、行くぞ」
階段へ向かいかけた土方が、無言で飲み続けている高杉に声をかける。

「ん?ああ、俺はもう少し飲む。火が種火になるまでな」
暖炉の中でまだ小さく燃え続けている炎を見て言った。

「そうか、じゃあな」
そう言って階段を上って行く土方の気配に手だけで合図して、ぐいっとグラスを傾ける。

「おやすみなさい」
すっとソファから立ち上がり高杉の傍まで来て小さな声で言うと、少女も階段の方へ歩いて行く。
ちょうどキッチンから出てきた慶喜も「おやすみ」と声をかけて、少女に続いて階段を上って行った。




・・・勝った。
高杉は心の中で独りごちて、グラスをテーブルに置き、んんんーっと大きくのびをした。
動揺をひた隠して最後までここに残った事に満足すると、今更ながらアルコールが一気に回ってきたようだ。
もう部屋まで行くのも面倒だなとソファに身を横たえて、背に掛っていたブランケットを毛布代わりに被り目を閉じた。







「じゃあ、ゆっくり休むんだよ」
ドアから半身を室内へ乗り出して、少女がベッドに入るのを見届けると壁のスイッチに手を掛けた。

「あの・・・」
少女に呼びとめられてベッドの方を見る。

「・・・なんだい?・・・電気は消さない方が良かったかな?」
怖いのかな、じゃあ消さないでおくねとほほ笑みながら、再び壁のスイッチを手先で探り当てる。

「・・・」
広い部屋の奥にあるベッドと入り口は距離もあって、天井のシャンデリアはそれほど明るくないけれど、少女の瞳が何か言いたげに揺れたのが確かに見えた。

「・・・どうしたの?」
ベッド脇まで近寄って、膝をついて顔を見る。


慶喜がそこまで来ると、少女はゆっくり目を閉じた。

「・・・っ!」
どうしていいのかわからない状況にうろたえる。
さっき意識してしまった赤く肉付きの良い唇は、うっすらと笑っている様に、ゆるやかな弧を描いている。

急に喉が渇くような気がして軽く舌で唇を湿らせてから、慶喜は自分も目を閉じて身を屈めると、ゆっくり唇を重ねた。


マシュマロのような感触と、ココアの甘い香り。


想像以上の感触の良さに、つい舌先で少女の唇を割ろうとしてしまう。
そっと薄目を開けると、驚いたように見開いていた少女の目と視線がぶつかった。
瞬時に自分の勘違いだったと察知して、慶喜は慌てて体を起こした。


「・・・お母さんは、いつもここにしてくれるんだけど・・・」
少女は人差し指をおでこにちょん、と当てながらきょとんとしていた。

「・・・あ、そ、そっか・・・えーっと・・・あの・・・は、はは・・・」
おでこにおやすみのキスを強請っていたのだと気づき、何も言い訳が思いつかず、頬を引きつらせてしまう。


しかし少女は、男の人はここにするのね、と自分の唇に指を押し当てて笑った。

「・・・あー、えーと、そー、そうだね・・・」
つられて適当に返事をしながら素早く立ち上がって、出口に向かって後ずさった。

「おやすみなさい・・・あ、電気は消して大丈夫・・・」
掛け布団をぎゅっと握って鼻まで隠した状態で首を起こし、ドアの前の慶喜を見つめる。

「う、うん・・・わかった・・・お、おやすみ・・・」




パタン




「・・・はぁつ・・・」
ドアを静かに閉めると、今までについた事もない程の大きな溜息を吐きだして、ふらふらと自分の部屋へ向かった。





≪赤ZUKIN9へ続く・・・≫
※大人向け、アメンバー限定です。