○胡椒(こしょう)
南インド原産のコショウ科の常緑つる性植物コショウ(Piper nigrum)の果実を用いる。コショウはすでに紀元前4~5世のヨーロッパで有名なスパイスの一つで、防腐効果や食欲増進の効果が知られていた。中世ヨーロッパでは金と同じくらいの価値があり、このためヨーロッパ列強諸国は東方へ進出し、大航海時代をもたらすこととなった。
中国へはインド産のものが中央アジア経由で伝わり、西域(胡)の山椒に似た辛いものということで胡椒と呼ばれた。日本にも古くから伝えられ、奈良時代の文献には薬種として記載されている。現在、インド、スリランカ、東南アジア、ブラジルなどで栽培されている。
コショウには黒コショウと白コショウの2種類があるが、未成熟の青い果実を数日間天日乾燥した黒くなったものが黒コショウであり、赤く成熟した果実を流水に漬けた後、果皮を取り去って乾燥したものが白コショウである。香味成分は果皮に多いため、芳香性と辛味は黒コショウのほうが強い。サプリメントやアロマでは辛味成分が多く含まれているブラックペッパー(黒コショウ)が用いられる。
辛味成分はアルカロイドのピペリンやシャビシンであり、香気成分は精油の中のフェランドレンやピネン、リモネンなどである。ピペリンには、抗菌・防腐・殺虫作用、消化促進作用などがあり、血管を拡張し、血流を促進し、エネルギー代謝を高め、消費カロリーを増やす効果がある。また、黒コショウエキス(バイオペリン)にはビタミンやミネラルなど各種栄養素の吸収率を高める効果のあることが注目されている。
漢方では温裏・止嘔・止瀉・解魚毒の効能があり、冷えによる腹痛や嘔吐、下痢、食中毒などに用いる。冷えによるシャックリには半夏・乾姜などと配合する(治吃逆一方)。胃寒による嘔吐や腹痛、下痢には硫黄などと配合する(澄涼丸)。小児の遣尿には補骨脂などと配合する(尿牀丸)。