○瞿麦(くばく)
本州北部、北海道根アジア・ヨーロッパの温帯に分布するナデシコ科の多年草カワラナデシコ(Dianthus superbus)及び中国原産のセキチク(D.chinensis)の全草を用いる。
ナデシコは本州中部以南のカワラナデシコと中部以北のエゾカワラナデシコなどの変種に区別されるが、種のレベルは同じであり、同様に用いられる。またセキチクをカワラナデシコ(唐撫子)というのに対して、カワラナデシコはヤマトナデシコ(大和撫子)ともいう。
生薬としては開花時の地上部の全草を瞿麦として用いる。また9月頃に果実ごと全草を採取し、乾燥させた後に手で揉んで集めた種子は瞿麦子という。一般に中国では全草が、日本では種子が好んで用いられている。
ナデシコの全草には少量なアルカロイド、セキチクにはサポニンなどが含まれ、瞿麦には利尿作用や心臓抑制作用、腸蠕動の興奮作用などが報告されている。漢方では全草に清熱・利尿・破血・通経の効能があり、主に尿路疾患に応用され、血尿を伴う膀胱炎や尿路結石に適している。
膀胱炎には木通・滑石・車前子などと配合する(八正散)。尿路結石には車前子・石韋
・滑石などと配合する(石葦散)。金匱要略では排尿障害には栝楼根・茯苓などと配合して用いている(栝楼瞿麦丸)。一方、瞿麦子には利尿作用のほか通経作用があり、民間薬として浮腫や月経不順に用いられている。ただし瞿麦子を多量に用いると流産の恐れがあり、かつて妊娠中絶薬として利用されたこともある。