1月、ケニアからスタートする Intrepid Road to Zanzibar という12日間のオーバーランドツアーに参加しようと考えていた。

年末年始はどこもかしこも観光業の最盛期で、ツアー価格も例外なく最高値を指す。暇だけは売るほどある身、わざわざその時期に突っ込む理由もない。少し時期を外し、価格の落ち着いた感のある1月11日出発のツアーを選んだ。


だが、この「1月11日」という日付が問題である。



エジプトの観光ビザ30日は、すでにとうに過ぎている。ダハブだけで25日も滞在していたのだから、切れないはずがない。


ビザ延長も含めて調べ始めると、エジプトのオーバーステイはどうやら緩いらしい、という話がそこかしこに転がっている。

「14日まではお咎めなし」「15日を超えると罰金」「15日で100ドル程度」——もっともらしいが、どれも確証に欠ける。

しかし仮に15日で100ドルなら、30日延長の正規費用より安い。しかも14日以内なら問題なし、という噂が本当なら、試してみる価値はある。


ルクソール ナイルの夕陽


というわけで、このまことしやかに話し継がれる謎の14日ルールの治験者になってみることにした。


出国日は1月7日深夜2時30分、アディスアベバ経由ナイロビ行き。

空港には早めに入り、チェックインカウンター一番乗りを狙う。通常、出発3〜4時間前にカウンターが開く。そこで最初にチェックインできれば、出国審査は6日の23時59分までに通過できる。


そうなればオーバーステイは13日。噂の14日まで1日の余裕が生まれ、入管の印象も悪くないはずだ。

0時を過ぎれば14日。ぎりぎりまで粘った感は否めず、審査官次第では罰金対象になりえる。という想像上の仮想現実だ。


一度荒らした墓は元には戻らない


エジプトは通貨安が止まらず、外貨獲得に必死らしい——オーバーステイの観光客から毎度100ドル徴収出来るならこんな簡単な話はない。そんな話まで耳に入ると、余計に神経を使わざるを得ない。


実際、ドルからエジプトポンドへの両替は容易だが、逆は極端に難しい。ATMで引き出したポンドは再両替不可。銀行や正規両替所での両替証明がなければ、元の通貨には戻らない。

仮に証明があっても、銀行で何枚もの書類に署名し、長い手続きを経て、ようやくドルやユーロに戻してもらえる。アリガタヤである。


モロッコで同じ目に遭った。

円換算で1万5千円ほど余った現地通貨は、結局使い道がなく、空港の制限区域まで持ち込むしかなかった。

その末に現れたのが、スイス国籍の両替屋だった。

乗合バスは楽しい


提示されたレートは、もはや数字というより宣告に近い。

手数料という名目ではない。だが結果として、価値の三割が削り取られる。

合法で、明示され、誰にも止められない。

自由市場とは、時にこういう顔をする。


政府と結託しているのか、制度の隙間なのか、それは想像の域を出ない。ただ、制限区域という逃げ場のない場所で、紙切れを前に選択肢を奪われる感覚だけは、確かにあった。

結局、その通貨は約63ドル(¥10,000)相当で引き取られた。

出国してしまえば、あれはただの紙屑だった、記念にするには多すぎる額だ。


クフ王の墓を荒らす


話を戻す。

オーバーステイの罰金支払いとなると、事態はさらにややこしくなる。


念のため罰金用にとエジプトポンドを用意しておいたとして、もし罰金なしという判決が下れば、そのポンドはまたしても紙屑同然となる。運よくスイスの両替屋に巡り合えれば、多少は救われるのかもしれないが、そんな幸運を当てにする気にはなれない。


ではドルで支払うとどうなるか。

手元にあるのは100ドル札のみ。仮に罰金が50ドル、あるいは150ドルだった場合、お釣りはエジプトポンドで返される可能性が極めて高い。そうなれば、そのお釣りもまた紙屑同然である。


残る手段は日本円。

しかし空港で日本円を扱う銀行を探し回る光景を想像しただけで、目が眩む。もはやそれが得なのか損なのか、その判断すら怪しくなってくる。


結局のところ、どの道を選んでも結果は同じだ。

罰金が確定した時点で、100ドルは失われる。さらにお釣りが出たとしても、それはお釣りという名の没収に過ぎない。


そして出国当日。

予定通りチェックインカウンター一番乗りを目指し、早くからカウンター前に並ぶ。午後11時30分、カウンターがオープンし、チェックインと荷物預けは滞りなく終了した。


またもや住み慣れたカイロとお別れ


この空港、ありがたいことにチェックインカウンターのすぐ隣が出国審査である。徒歩一分ほど。

急いで、まだ誰もいない審査官にパスポートを差し出す。しかし、すぐに突き返された。出国カードを書いてこい、という指示だった。


書類を整え、今度は三列ほどある審査の列へ向かう。全員女性の列の中から、いかにも人が良さそうで、どこかいい加減そうな審査官の前に並び直し、再びパスポートを提出する。


しばしの沈黙。

やがて、ハンコがポンと押された。


それだけだった。

罰金も、質問も、咎めもない。


こうして謎の14日ルールの検証は終わった。2026,1,6日現在、13日間のオーバーステイでは、罰金なし、お咎めなし。

エジプトはオーバーステイに対して、想像以上に寛大な国である、ということであった。



放浪老人記 GG 2025/1/18