人は見知らぬ土地に立つと、己の足が急に借り物になったような心持ちになる。私もその例に漏れず、店の前まで来たものの、肝心の入口がどうしても見つからない。右へ行き左へ戻り、しまいには己が何を探しているのかさえ怪しく思われる始末であった。
やむを得ず建物の裏手へ回ると、一人の中年女性が煙草をふかしていた。小柄ではなく、むしろ豊満という言葉を遠慮なく押し広げたような体つきで、紫煙を吐く姿には、妙な貫禄があった。
私は声を掛ける勇気を持てず、一度は道路まで引き返した。しかし、もしかするとあのユミコという人が中にいるかもしれない、という期待が、理性より少しばかり強かったのである。再び裏へ回り、意を決して扉を叩いた。
やがて扉は開いた。
現れた人物を見て、私はしばらく言葉を失った。
これをトドと形容するのはトドに気の毒であり、セイウチと呼ぶのもまたセイウチへの礼を失する。いずれの比喩も当人たちから抗議を受けかねぬほど、自然界の良心に対して申し訳ない気がしたのである。
顔立ちといい、体格といい、私の語彙は前向きな表現を探そうとして、ことごとく途中で力尽きた。つい「巨漢の醜女」と心中で断じてしまった。
……いや、これは少々率直に過ぎた。
うっかり、うっかりである。
されど現実とは、とかく人の良識よりも先に姿を現すものらしい。
私は何とも言い難い憤懣を覚え、携帯を取り出して店のホームページを開いた。
――誰があなた様と対戦するものか。
そう胸中で独りごちながら、こちらはこちらで、先方にも現実というものをお見せ申し上げようと、ユミコの写真をその女性へ差し出した。
すると彼女は写真を一瞥し、「あっ、OK」とだけ答えた。
その返事には、「ああ、そうきましたか」という慣れきった諦念が滲んでいた。驚きも怒りもなく、人生には説明を要しない出来事がある、とでも言いたげな顔である。
ほどなくして、彼女は奥からユミコを連れてきた。
私は思わず目を見張った。
先ほどの女性を見た直後であったという事情を差し引いても、その第一印象は予想を大きく裏切るものであった。
まるで佐々木大魔神の投じるフォークボールのような落差――いや、落差という言葉では少々趣が違う。むしろ、目の前の現実が急角度に変化し、私の認識というバットは空を切った、と言うほうが近い。
思考は見事に三振した。
これが、あのユミコなのか。
私はただ、その事実だけを反芻していた。
この先の出来事を書き連ねれば、話はいささか長くなる。
ゆえに、その顛末は後編に譲ることとしたい。