先日、大和郡山市矢田町にある「奈良県立民族博物館」に出かけてきました。常設展の「大和のくらし」をもう一度ゆっくりと見学してみたくなったからです。
奈良県立民族博物館
http://www.pref.nara.jp/bunkak/minpaku/index.html
往古から稲作りが人々の暮らしの中心で、稲作りとともに1年があり、稲作りとともに一生があった、そんな人々の暮らしの足跡を、展示物を通して思い起こしたいという気になりました。
稲作を中心とする農事に関わる用具や諸行事は、長く人々の暮らしの中に組み込まれ、今もあまり姿かたちを変えず使用され、守り伝えられているものもありますが、多くは急速な都市化と省力化の波の中で、伝統的な用具や生活様式も大きく変わり、祭事の簡略化、形式化が進んでいます。祭事も担い手となる後継者が少なくなり、継続そのものも危ぶまれるものも数多くあると思われます。
生まれ育った環境にもよるでしょうが、おそらく昭和30年代までに幼少期にあった太古の年代は、まだ、展示物の用具や生活様式がわずかに記憶に残っていますし、一部には使用した体験もありますが、次第に記憶にない生活文化財としてしか見れない時代が来るのでしょうね。
両槻会定例会での歓談で太古がよく「昭和30年代まではまだ江戸時代だった」と極端なことを言っては、奇異に感じられた方も多いかと思いますが、今振り返っての実感としては、自給自足の循環型社会がまだ少しは身近に機能して生きていたような気がするからです。
明日香稲渕の棚田周遊路を歩いていると、棚田オーナーの年間活動計画が貼り出されています。そこには稲作を中心とする1年の暮らしの一端が書き記されていました。お正月明けの成人の日(来年は本来の11日)には、その年の五穀豊穣を祈願する農耕はじめの綱掛神事が執り行われ、4月のれんげ祭り、畦の草刈り、5月に入ると苗代作り、荒田起こしが続き、6月には田植えに向けての畦塗り、水が入るとマンガ(馬鍬)かけが行われ、このころには蛍の夕べも催され、オーナーの田植え(6月21日)が始まります。7月には中間の草刈りと棚田を見守るジャンボ案山子が立てられます(7月26日)。8月には盆踊りで、地元とオーナーのみなさんの交流が深められます。
8月30日からは、案山子ロードに案山子立てが始まります。9月に入ると、彼岸花祭り、案山子祭り(9月20日)に備えて、一斉の草刈りが行われ、やがて整えられた棚田の畦を真っ赤な彼岸花が彩ります。
そして、10月に入ると、いよいよ棚田は実りの時期を迎え、稲刈り(10月18日)、続いて11月には脱穀、籾すり、ススキづくりが行われ、1年の感謝の収穫祭で締め括られます。
各地で行われている伝統の祭事も、ほとんどがこの暮らしを支える稲作りに関わる祈願や感謝祭ですね。ままならない自然への畏敬と豊穣への願いを神祀りというかたちに現すことで、共同体の繁栄と結束を深め、大いなるものを心の中に共に認めることで、人の奢りと乱れを戒めてきたものだと思われます。
博物館の展示を見ながら、稲作りを通して営々として築きあげられて来た地域固有の生活文化を伝えてゆくには、有形、無形の民族文化財として指定されるものもありますが、地域が育んできたその本来の心を地域の人々によって長く語り継ぐことができる環境をいかに維持していくかが欠かせない要素ではないかと思われました。