どの地域にも、その地域でしか放映されていないローカルCMというものがあります。

 
ローカルCMは、その極端に抑えた制作費のおかげで全国区の大企業のCMに比べると『チープ』な作りになってしまいがちなのですが
反面、何者にも縛られない自由度の高い秀逸な作品になり得ることも少なくありません。
 
その魅力は遠く故郷を離れたり現在に隔世の感を覚える人にとって、
今見ると得も言われぬ郷愁感を与えてくれるのです。
 
 
20世紀末を関西地方で過ごした僕たちにとってのそんなCMのひとつが
この『はぎや整形』です。
 
 
 
“はぎやせ〜け〜〜”
 
なんとも形容しがたいエコーのかかった女性の一声を合図にCMは始まります。
 
バックにはもはや関西地方かどうかも分からないけれど美しい青い海。
 
そして画面中央の『はぎや』の文字が
 
はぎや…
はぎや…
はぎや
 
とじんわりアップになっていきます。
 
 
BGMは口笛が流れるのんびりとしたイージーリスニング。
 
このBGM、Franco Altissimiというイタリアの作曲家の『Delicacy』という楽曲だそうですが
 
自身の曲によって遠く日本の関西地方出身者が故郷に想いを馳せているなどとは、
彼は夢にも思っていないことでしょう。
 
 
 
切り替わり浜の方へと画面が移ります。
美しい白浜が見られます。
依然としてどこの海なのか分かりません。
 
先ほど大きくなった『はぎや』の文字の下に出てくる『泉の広場上る』の文字。
 
“はぎや整形は、大阪梅田地下街、泉の広場を上ったところ”
という女性のナレーション。
 
泉の広場とは、大阪梅田の地下街にある待ち合わせスポットなのですが
あまりにざっくりとした説明。
 
インターネットもなく簡単に検索も出来ない時代に
あまりにざっくりとした説明。
 
 
これがまた味のある魅力。
 
 
ちなみに、
僕はこの『泉の広場上る』のおかげで
いまだに『あがる』を漢字表記する際に
『上がる』
と書かず
『上る』
と書いてしまいがちです。
 
 
“あらゆる整形のご相談は、皮膚科、歯科もある、
はぎやせ〜け〜へ
 
と、ナレーションとエコーが入りCMは終わります。
 
これで終わりなんです。
 
 
 
このCMは特段インパクトを狙って作られたものではないと僕は思うんです。
 
 
爽やかな画をバックに映し、
 
耳障りの良いBGMを使い、
 
アップになるテロップやエコーを利かせたナレーションで院名を少し強調して、
 
15秒しか時間がないので必要最小限の説明だけは入れよう。
 
 
ただこういう感じで作られたものだと思うんです。
 
 
それが、見る人を惹きつけ関西を代表するCMとなり
僕たちの郷愁感を湧き起こしてくれる作品になろうとは、
Altissimi同様、CM制作者は思いもよらなかったでしょう。
 
 
そんな背景を考えながら見ることもCMの楽しみ方のひとつです。
 
 
 
見る人によっては不気味にも感じられるエコーやBGMのおかげで
『トラウマCM』として印象に残るという声も聞きますが、
 
僕たちの印象に残った理由はそれだけではなく
関西人との相性が良かったということも大きな理由ではないかと思います。
 
 
なんやこれどこの海や?!
 
なんやねんこのエコーと音楽?!
 
場所の説明は泉の広場上るだけかい?!
 
もうエコーはええっちゅうねん!!
 
 
自然と色んなものにツッコミを入れてしまう関西人のツッコミ気質と
言葉足らずでツッコミ所満載のこのCMは妙に肌が合ったのではないでしょうか。
 
 
 
土地々の風土にあったCMがその地域では親しまれます。
 
関西地方ではガチャガチャと煩わしいCMよりも、
こちらがツッコミを入れるくらい充分な『間』を持ったCMのほうが意外と親しまれるのかもしれません。
 
この事は、
先日書いた『ハナテン中古車センター』のCMにも同様に当てはまるように思います。