丁度去年の今日でした、
前回の記事を見て頂ければわかりますが映画「マチネの終わりに」で
クラシックギター監修、指導をされた福田進一さんのアシストとしてパリでの撮影時にほんの少し協力させて頂きました。
任されていたのは主に主人公のクラシックギタリストを演じる福山雅治さんのフォームなどの
チェックや指導など。。また次回に詳しいことを書きたいと思いますが結論から言うと本当に指導、などということは殆どなくすでに福山さんのフォームやテクニックは僕らクラシックギタリストから見ても既に完璧なものに仕上がっていました。
さて、そんな『マチネの終わりに』の撮影の2日目の出来事。
僕はまだ福山さんとはスタッフの方を通して1言挨拶させて頂いただけで何一つ面識のないときでした。
とにかくすごいオーラだったのを覚えています。。
この撮影2日目は映画にも出演した天才ギタリスト役の、ティボーガルシアを演じるティボーガルシア(本名)の撮影がありました。
ティボーとは実は10年以上の付き合いで彼が14歳からの付き合いで学校も先生も同じで弟のように慕ってる存在です。
ティボーには僕がいることは内緒にしていてティボーが来るなり
「え、タイキなんでいんの!?」
日本のスタッフの方にはわからないと思い
自分で自分を指さして
「俺が主役やねん」 としょうもない冗談をフランス語で。
ところが何も知らずに来たティボーは3秒だけ信じてくれました、、純粋。
ごめんなさい。
そしてティボーの演奏のシーンの撮影が始まります。
相変わらずのすごい存在感と実力で2テイクほどで演奏の方の撮影は終わります。
そして撮影の合間、福山さんのギターをティボーが試奏することに。
ちなみに福山さんのギターはイグナシオフレタというギタリストが喉から手が出る程欲しい銘器です。
はい、ここからが今日書きたかったことです!
まずそれまでの撮影では指導なんて必要もなかったし、オーラが巨大すぎるのと
まず第一声、なんて呼べば良いのかわからない。。福山さん、、?違和感。
といったこともあり話しかけられませんでした。
でももし話しかけるなら今しかない!と思い、
「福山さん、あの、クラシックギターどうやってこの短期間であそこまで弾けるようになったんですか?全然アコギやエレキとは違いませんか。。?」
写真のこの場面、丁度勇気出して話しかける2分前くらいです。
※写真はシネマトゥデイさんのメイキング映像集から
※腕を組んでるのは真似してる訳ではありません
とても優しく応えてくださり、ほっとしました。一語一句覚えてますがここでは書くことはやめておきます。ただ大爆笑な例え話をされてました。
その後、ティボーが弾き終わります。
「うん、これはすごいギター!古いレコードのような味わいのある音がする!」
とティボ。
いいなーティボ。 いいなーーーーー、と思っていたら福山さんがギターを持ってきてくださり
『よかったらどうぞ』と言ってくださり、、僕も試奏することになります。
嬉しい!と思ったんですけどよく考えたら撮影現場のステージ上だったんで
監督やその他スタッフの方もいます。
そして何より、、あの小さいころからテレビでギターを弾いていた福山さんの前で自分がギターを弾く。
心の準備ができてないままステージ上へ。
普段の演奏会でも緊張はしますがそれとは全く違った種類の緊張が押し寄せます。
緊張というよりは少しパニックに近かったです。
手が震えることは普段も演奏会のときありますがその時は足、体、いや
地球ごと震えている、、、という感じだったのを覚えてます。
なにかが変。
どうしよ!!!何を弾けば。。
さあここからが恥ずかしながら自分の本性がでます。
目の前にいる同性としてというか同じ生物としてすべて負けている存在の福山さん。
でも僕もクラシックギターは!大聖堂は自分も弾ける。。。!ということで
何を血迷ったか僕はそこで大聖堂と幸福の硬貨(今回映画のために福山さんが練習されていた2曲)を弾き始めます。
他にもロドリーゴのトッカータなど技巧的な曲を弾いて
ライオンを目の前にしたチワワが叫ぶように弾き続けました。
これはなかなか同業者にしかわからない失態?なのですが例えるなら
ずっと魚を捌くスペシャリストだった人がある日果物ナイフを使って果物を綺麗に切らなくてはいけない。
目標はリンゴの皮が最後まで途切れずにむききること。
そして僕は果物ナイフのスペシャリストでこれを使ってくださいと言われれば
まあそこには無数の果物があるわけですから他の果物を使って何か披露すればよかったわけです。
わざわざりんごを取って、なんなら楽勝で皮むけますよ!みたいなのことをしたわけです。
別にだめじゃないけど。。なんとなくNGですよね。
この例えでわかっていただけますでしょうか?
まあそこはリンゴにするべきでしょ!という人もいるかもしれませんが普段なら僕は絶対しません。
ただ本当にそのときはパニックになっていて、その期間ずっと聞いていた大聖堂と幸福の硬貨が手にでてきただけ、という言い訳もあります。
でも素晴らしい楽器でした。と言っても本当のこと言うとパニックであまり楽器の音がどうだったかというのは細かく覚えていないのですが。
今思えば撮影途中ですごくタイトなスケジュールでスタッフの方が秒単位で進行しているところを僕があんなに長く弾いてしまってすごく迷惑をかけたのでは、、という思いがあります。
でも恥ずかしいことをしたなぁと思いながらも一生忘れられない思い出になりました。
帰り道、
ティボーと一緒に帰ります。
僕が大聖堂をあの場で弾いたことについて
『たいき、あれはないわ、、』
『やっぱり?笑』
『うん笑』
『なんやねん、てか役通り嫌なこと言うな!Tais-toi! 』
『笑 笑』
『てかそもそもMASAHARU FUKUYAMAと共演したこがどのくらいすごいことかわかってないやろ』
と散々福山さんが日本でどういう存在なのかを語りました。
『うん、でもたしかにタイキとは違った』
『やかましいわ』
『まあでもティボー、ちょっとありがとう!』
と言い合いながら二人でパリに帰りました。(そのときの現場はベルサイユ宮殿の近くにあるホールでパリ市内からはすごく遠い)
色々自分の中では恥ずかしい思いもありますが一生忘れられない日になりました。
次回はミスター・Fのカッコ良さについて書かせていただきます。
本当にかっこいいんです。。伝えたいです。
今回も最後まで読んで頂いた方、どうもありがとうございました。
松本大樹