呉式太極拳の「無過不及」 (1) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


太極拳の経典とされた清代・王宗岳氏の《太極拳論》の1段落目に「…。
動之則分,静之則合。無過不及,随曲就伸。…」 がある。  その「無過不及」について呉式の視点で奥義の解明をアプローチしてみたい。  言語的に訳せば、「無過不及」とは、「過」及び「不及」、即ち、過不足のことを無にする意だ。では、「過」とは何か。又、「不及」とは何か。これについて、套路と推手、内面と外面のアングルでヒントとなる要素を拾ってみる。

 

筆者は呉式太極拳西九条倶楽部のホームページ (Google検索用語:呉式太極拳 教室)の『太極拳の心得』欄に「呉式太極拳の足」という記事を最近書いた。先ずそれを例に議論を展開することにしよう。

 

外見においては、呉式の「平行歩」は 両つま先の向きが一致している。この点は陳式や楊式の修行者にとっては慣れないところだ。後足のつま先を前足より外向けになってはいけないと分かっていながら気がついたら外向けになっている。これは即ち 「不及」なのだ。「斜中正」の原理では、体重が前足に移る際に重心の垂線が軸足の前足と重なっておらず 後足に寄っている場合は「不及」、前足を越える場合は「過」となる。体重が後足に移る際も 同じことが言える。重心の垂線が軸足の後足より後ろの場合は「過」、前の場合は「不及」となる。又、呉式の特徴の一つとして「川字歩」がある。「川」の字の真ん中の縦線は体の根幹部分、両側の縦線が足の進退軌跡だ。両側の縦線の横幅が狭すぎたら「不及」、広すぎたら「過」となる。前足と後足の進退幅も同様だ。

 

足に限らず、腕もそうだ。腕が「伸」の場合は、 肩、肘、手首、手の指の各関節が開かず 手を出した場合は「不及」、 力を入れて硬直に手を伸ばした場合は「過」となる。腕が「曲」の場合は 脇の開きに要求がある。脇に熱々の饅頭を挟んでいるようで、開けすぎたら饅頭が落ちるが強く挟むと火傷するという師匠の教示を思い出す。前者は「不及」、後者は「過」と理解する。