先ず太極拳の修練時における「気」の注意点である。
「気」のメカニズムについてはまだ科学的に完全に解明されてはいないが、「気」という言葉の表現及びその現象は古代から一般的に認識されている。ただ気をつけなければいけないのは、ここで言う「気」は「呼吸」と混同してはならないことである。
「気」という中国語は呼吸に係わる空気の意味もあれば、「真気」(中国語)と呼ばれるものもある。その「真気」の中身も複雑である。父母からもらった先天的なものもあれば、呼吸や食事などによって外部から補われるものもある。更に太極拳の独特なトレーニング方法(太極拳の専門用語では「斂気」と言う)によって得るものも含まれる。ここで言う「気」はそれである。
「呼吸」も「斂気」も同じく「真気」を得るための手段であるため、よく混同されている。しかし「呼吸」で「斂気」を求めようとしても「斂気」どころか、正常な呼吸さえ阻害されかねない。
太極拳の動作を行う時に用いるべきものはあくまでも意識であり、呼吸ではない。正しいトレーニング方法によって一定の積み重ねを経たのち体内にある種の変化(気)を感じ、更に意識を以てその「気」を導く。太極拳の経典の一つとされている《十三勢行功心解》の中で要求されている、いわゆる「以心行気」、「以気運身」の境地を求めるのである。
太極拳の修練から得る上記の「気」は、五臓六腑の滋養に良いことは言うまでもないが、一方、護身・格闘に利用すると絶大なパワーとなる。次はこれについて注意点を述べたい。
体内の「真気」は太極拳の「斂気」に比例してその量が増えるが、むやみやたらに使うと「斂気」で増えた分だけでなく、本来持っている分も消耗されてしまう。つまり、得た「気」を養生に使えば、健康促進・長寿につながるが、取っ組み合う時など、不当に使いすぎると健康を損ない、命を削ることにもなりかねない。太極拳の達人がみんな長寿ではないことは、無論複雑な要因が絡むが、これも一因ではないかと筆者は思う。