鉄砲のない時代に誕生した太極拳は疑いもなく武術だが、今の世の中は「こんなゆっくりした動作でどうやって敵と戦えるの」と思う人のほうが多く、本気に太極拳を武術としている人はさほど多くないことも事実だ。先日「武術太極拳」というタイトルを見た瞬間、再びそのような不思議な思いをさせられた。「武術少林拳」と皆が呼ばないのは、少林拳が武術であることは誰しも知っているからだ。
太極拳の武術的な価値、格闘技としての原理は別途議論することにするが、ここでは、その究極の修練目的について考えてみたいと思います。
太極拳が武術として生まれたから当然敵に勝てるのが究極の目的ではないかと思うが、それはすべてではない。昔から太極拳の経典とされてきた《十三勢歌訣》の締め括りに「…想推用意終何在,益壽延年不老春」という名句がある。(太極拳を修練する)意図が結局どこにあるかを推理していくと寿命を延ばしいつまでも若々しくすることが目的だという意。即ち、健康と護身の両方が太極拳の究極の修練目的だ。そして特に現代においては、むしろその順番が第一に健康、第二に護身ということだ。
長寿と言えば、呉式太極拳は内家拳(太極拳・形意拳・八卦掌等)の諸流儀の中で最も典型的である。その事実は下記資料からも一目瞭然である。第1~4位は全部呉式太極拳が占めており、ベスト・テンの内、6人が呉式太極拳だ。
【内家拳の長寿番付ベスト10】
第一位 呉図南 104歳 呉式太極拳
第二位 江長風 99歳 呉式太極拳
第三位 馬岳梁 97歳 呉式太極拳
第四位 楊禹廷 95歳 呉式太極拳
第五位 胡燿貞 94歳 形意拳
第六位 陳福康 92歳 呉式太極拳
第七位 濮氷如 92歳 楊式太極拳
第八位 李子鳴 91歳 八卦掌
第九位 呉英華 91歳 呉式太極拳
第十位 戴隆邦 90歳 形意拳
では、 太極拳、更に呉式太極拳の健康促進・長寿への秘法は一体何だろう。体操・舞踊みたいな動きをゆっくりすれば、こんなに効果が期待できるのか。次はこれを議論の課題としよう。