20年以上前に聞いたお話です。
関東からかなり遠い地方出身の男性、仮にAさんとします。ひとりっ子の長男なので結婚して家を継がなければならないが社会人になり即、親類縁者がいない東京へ移住しました。
実家は、母と姉が住んでいる。
東京で就職先を見つけ、二度と此処へは戻らないと決心して家を後にした。生まれ育ったあの村には暖かな思い出よりも辛く哀しい思い出の方が多いのだから。俺は、子供の頃からず~っと村人達の好奇の目に晒されて生きてきたのだ。
Aさんの家は先祖代々、息子が10歳頃になると父親が狂い死ぬ家系なのです。逆に、妻や娘達の全てが健康で長生きしている。山を複数所有し、村で1番立派な旧家であるにも関わらず先祖の話、原因となる出来事なような話は何も伝わっておらず村の人達も知らない。
Aさんが小学生だったある日曜日、祖母と両親、姉と自分とでテレビを観ながらお昼ごはんを楽しく食べている最中、父が奇声をあげながらテーブルの皿を落としまくりテーブルをひっくり返した。忿怒の表情で奇声を上げながら箪笥をひっくり返す、引き出しの中身を引っ張りだしたりと荒らしながら部屋から部屋へ大暴れするのを祖母と母が必死で止めるが敵うはずもなく殴る蹴るはしないが突き飛ばされて何度も尻餅をついている。
父は、怒った姿を見た事がない程に温厚な人だったのに今は別人のように奇声を上げ大暴れしている。目の前の衝撃的な出来事に頭がついていかなくて居間の隅っこでお姉ちゃんとくっついて泣いていた。
家中を荒らし終えると裸足のまま外へと走り出て行きました。それを追う祖母と母でしたが途中で見失い近所の人達に捜索を頼み、その日の夕方には山中で首を吊っていたのを発見された。知らせに来た人と祖母と母親から「留守番してろ」と言われたが大人達の少し後をつけて行きました。発見場所は、うちが所有している山、そこから自宅の屋根が見える距離で首を吊っていた。村の人達が野次馬根性丸出しで見上げていた。自分に気付いた人が「こっち来んな!子供は見ちゃいかん!」怒鳴られながらも人をかき分けお父さんの姿を見て腰を抜かし呆然とした。
村の男衆が何時間も山中を捜しまわったのにこんなに近くにいたなんて。そのロープは何処で手に入れた?
その日の夜、仏間にて祖母と母から我が家は先祖代々、家長が突然狂い出し家中の物を倒したり大暴れしつくした後で自さつする家系だと聞かされた。男が早く死ぬが女は全員、健康で長生きするとも言われた。お父さんはロープで首を吊ったが包丁で己の腹を裂いたりと死にざまは違うんだ。お前も、お父さん位の年齢になったら狂い死にするんだよと祖母から教えられたが、お父さんは先祖が悪い事をした因縁でああなったの?何かの呪いのせいでお父さんは命を奪われた?!と怒りが湧いた。
先祖の位牌、男達の享年...
皆、お父さんみたいに...
その日以降、Aさんは村を出る日まで村人達の好奇の目に晒されたのでした。
小学校からの行き帰りに村人達はいちいち野良仕事の手を休めて俺を見る。「あの子も大人になったら狂い死ぬんだのう!」離れた所にいる俺に聞こえる声でそんな話をして笑う。指をさし「狂い死にの家の子が歩いている!」それらが悔しくて堪らなかった。優しくって大好きなお父さんが死んで哀しくて堪らないのに。お父さんが恋しいのに。
村人達の皆、うちが所有している山々の恩恵を受けているから祖母や母と一緒の時は馬鹿にされない。
Aさんちの坊ちゃん、そんな感じ。
いつもいつも俺を見ては、「次はどんな死に方だろうね~?」笑ったり、カーテンの隙間から無表情で見ていたり。
だから、子供の時には既に大人になったらこの村を出ると決めていた。
少しでも遠い所が良い。誰かが東京は人が冷たいと言っていた。他人に興味が無い人ばかりだと。俺にはそれが良い!
思った通り、都会の冷たさは俺には快適だった。
俺は長生き出来ない。しかも、凄く嫌な死に方をするのだから恋人は作らず結婚もしない。こんな家に生まれなければ結婚して子供が欲しかった。ばぁちゃんとお母さん、姉ちゃんが凄まじく嘆き哀しむ姿を見て俺はあんな思いをさせないと決めたし、お父さんの最後の姿を見た時の気持ちを息子にさせたくない。俺で終わりにする。
俺の事で誰も哀しんで欲しくないし、死ぬ時に迷惑かけたくないから誰とも親しく関わらないようにしてきた。
なんか最近、姉からの電話の頻度が増えた。
「生存確認?」
そう冗談めかして言うと
「やだぁ~、元気でやってるかと思って。たまには帰って来て元気な顔を見せなさいよ!」
明るく言うのだが家族だからその明るさは違うと電話越しでも伝わる。上京したての頃は別として母から掛かってきた事は無くて姉から母へと代わる。もうそろそろ親父の年だから俺が出ない事を考えて怖いのだろう。既に覚悟しているが社内や電車とか他に人がいる場所で狂うのだけは嫌だな、困る...仕事中もそんな事を考えてしまう。お父さんのように日曜日が良い。自宅にいる時に狂い、自宅で死にたい。姉からの電話の頻度が以前よりも増えたが俺自身も考える事が増えたな。お父さんが生きていた時は知らなかったが怒った姿を見た事がない意味がわかる。部屋の灯りを消し眠りにつくまでの間、お父さんの笑顔、死んだ時の苦しそうで哀しい顔を思い出す。その瞬間、我が家の方を見てどんな気持ちで逝ったのか。俺の先祖は、いったいどんな悪行をしたのだろう。