日経平均株価は今週、一度も3万9000円を上回ることなく取引を終えた。上値の重い展開が3カ月にわたって続く。隠れた売り手として市場関係者の注目を集めているのが上場投資信託(ETF)からの巨額の資金流出だ。

「企業の業績予想は減益が多いうえに、金利は上昇していく。上値を追うセンチメントではない」。21日、早々に下げに転じた相場を横目に、T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔シニア・トレーダーはこぼした。

4月以降のさえない相場では、海外勢の売りを個人の買いや自社株買いが吸収する需給の綱引きが起きていると捉えられている。ところが、ETFに生じた異変はほかの売り手の存在を示唆する。

5月月間の日本株ETFからの資金流出は全体で1兆2348億円と、米サブプライムローン問題が浮上した2007年7月以来の規模となった。

 

誰がETFを大量解約したのか。最大の保有者である日銀は3月に購入をやめたが、売却は見送っている。個人投資家の売却だけで膨らむ金額ではない。市場には金融機関との観測がある。

ETFを一つ一つ丁寧にみていくと、2つの説が浮かび上がる。

1つは「短期トレードの利益確定説」。5月の流出額が最も大きかったのは野村アセットマネジメントが運用する「NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信」。ほぼ同額が4月に流入しており1カ月程度で利益確定した可能性がある。

数カ月単位のトレードの動きもみられる。三井住友DSアセットマネジメントの「SMDAM 日経225上場投信」は、2月に500億円近い純流入があり、5月に700億円流出した。他のETFにも同じような流出入がみられる。

 

2つ目は「益出し説」だ。金融機関は新年度に入る4月から、含み益のあるETFを売却し、実現益を早めに確定することが多い。ほかの資産の損失処理の穴埋めに益出しを使うこともある。

今年は4月に純資産が急減したETFがある。農林中央金庫と全国共済農業協同組合連合会(全共連)が出資する、農林中金全共連アセットマネジメントのETF「NZAM 上場投信 日経225」は、3月末には2500億円近くあった純資産が4月10日には900億円を下回った。

 

農中アセットの担当者は「個別の投資家の動きは承知していない」とするが、21年2月に純資産が急増した経緯があり、3年ほど保有した金融機関が解約に動いた可能性がある。

益出しの理由は複数ありそうだ。三菱UFJアセットマネジメントの八木孝幸商品マーケティング企画部副部長は「外債など他のアセットで多額の損失を出していた金融機関が、まとまって利益確定に動いた可能性がある」とみる。

ある地銀の資金運用担当者は、期初にETFの益出しをしたという。「予算繰りのため」だが、さらに注目するのは5月の国内の長期金利上昇(国債価格の下落)だ。「日本国債の評価損で損失が膨らむのを避けるために、含み益が大きいETFを売る戦略は十分考えられる」という。金利上昇をきっかけにETFの益出しを進めた金融機関もあるとみられる。

短期トレードに国内外の債券の含み損を意識したETFの売却も重なり、5月の流出額が巨額になったようだ。

ETFの売却は現物株の株価に響く。東京証券取引所の調査によると、大手銀行や地銀は証券会社のOTC(相対取引)を使うことが多い。金額が大きいため一度に売買すると値動きに影響するからだ。ETFを買い受けた証券会社はまず先物を売り建てて株価変動をヘッジした後、ETFを現物株のバスケットにして市場で段階的に処分していくといった取引をする。

 

投資部門別売買動向を見ると、日本株の上値が重い4〜5月の主な売り手は証券会社の自己売買部門で約2.4兆円と巨額だ。ETFの売却の一部が証券自己の売りに表れたもようだ。

金融機関のETFの売りは、日本株の弱さを嫌気したものではない。農中などを除けば、外債の含み損はおおむね処理が完了したとの指摘もある。夜明け前が一番暗いという。益出しが一巡すれば、需給上の重荷がなくなり、株価もおのずと上がりやすくなるはずだ。