17日の米株式市場でダウ工業株30種平均が4万ドルの大台を突破した。米株相場の強さの背景や先行きについて、米市場関係者に聞いた。

米株高、テック一極集中は長続きせず

米資産運用会社ファースト・イーグル・インベストメンツのグローバル・バリュー投資部門責任者、キンボール・ブルッカー氏

ファースト・イーグル・インベストメンツのキンボール・ブルッカー氏

米株高はインフレが落ち着く一方、労働市場は堅調で景気は軟着陸できるとの市場の期待が背景にある。米連邦準備理事会(FRB)による今年の利下げの回数が減っても金利がこれ以上上がらないという見通しは市場にとっては明るい材料だ。人工知能(AI)関連の銘柄や肥満症薬のメーカーの株価の急騰など個別ニュースも市場心理の改善に貢献した。

マイクロソフトなど)「マグニフィセント7(壮大な7銘柄)」が今まで株高を先導したが、現在はほかの銘柄の上昇も目立つ。たとえば大手米銀のJPモルガン・チェースがそうだ。同社の預金額は業界全体の13〜14%程度だが、収益でみると全体の3分の1を占める。

株高が特定の業種・企業に一極集中することはいつの時代でも起こるが、そうした企業はいずれは色あせる。25年ほど前に躍進したゼネラル・エレクトリック(GE)や米銀シティグループなどがそうだ。利益の集中は企業の独占を阻止する政府の反トラスト法による規制強化にもつながり、株式投資のリスク要因になる。

米国株がかなり割高になったことは確かだ。S&P500種株価指数で見た場合、PER(株価収益率)は約21倍と過去平均の15〜16倍を上回っている。グローバル投資家には日本など米国外の株式の方が割安で魅力的だ。バリュー投資家の我々はネスレやLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンといった米国外の消費関連銘柄で、グローバルに事業を展開し、安定的なリターンを確保できる企業に投資している。

ただし米国株はバブルが膨れ上がってまもなく崩壊するという状況ではない。90年代のIT(情報技術)バブル時にもてはやされたシスコシステムズのPERは一時100倍になったが、バブル崩壊で株価は急落し、回復するのに10年ほどかかった。現在の(グーグル親会社の)アルファベットやマイクロソフトはPERは高いとはいえ、理にかなっていないわけではない。

(聞き手はニューヨーク=伴百江)

インフレ沈静と企業業績が株高の支え

LPLファイナンシャルのチーフ・グローバルストラテジスト、クインシー・クロスビー氏

LPLファイナンシャルのクインシー・クロスビー氏

インフレ率は依然として高いものの、加速はしていないということが市場の安心感につながっている。15日に発表された小売売上高は市場予想を下回り、景気減速感が示された。これはFRBが今の局面ではこれ以上引き締めることはできないことを示唆している。

株式相場は着実に上昇しており、健全性を保っている。大手のテック企業のみならず、中小企業にも資金が集まっている。企業決算は予想以上に好調で、労働市場も堅調さを保ち、消費を支えている。

低所得者層では家計の負担が高まる一方、堅調な労働市場の恩恵を受けて高所得者層の消費は依然底堅い。米経済は、これから若干の軟化が予想されるが、大きく勢いを失うようなことはないだろう。

株式相場は年末に向けて5〜10%ほど価格が下落する可能性があるが、好調な企業決算が続き、投資家の資金も流入し続けるとみている。

(聞き手はニューヨーク=佐藤璃子)

ハードランディング、近い将来訪れる

SMBC日興セキュリティーズ・アメリカのチーフ・エコノミスト、ジョセフ・ラボーニャ氏

SMBC日興セキュリティーズ・アメリカのジョセフ・ラボーニャ氏

株式市場が上昇しているのは米連邦準備理事会(FRB)が金融システムに流動性を供給しているからだ。銀行の準備預金残高は2022年の量的引き締め(QT)開始時から減っていない。

今の株高はトランプ前大統領の再選期待が高まっていることも背景にある。新型コロナウイルス禍以前は株価が非常に高く、下落後の回復も早かった。法人減税とサプライサイドの経済を重視するトランプ氏の経済政策を市場関係者は好意的に捉えている。

賃貸住宅が大幅に値下がりしていることを踏まえれば、今後半年から2年の間、インフレのペースは緩やかになるだろう。だが、FRBが目標とする2%に低下するまではまだ時間がかかる。

政策金利が高止まりすれば、経済のハードランディング(硬着陸)はそう遠くない将来にやってくる。景気後退が起きた際に、株価が現状の水準を維持する可能性は低い。ダウ平均の4万ドル超えが新たな強気相場の始まりだとは思わない。

(聞き手はニューヨーク=三島大地)

市場はやや楽観的、夏場に下落も

米調査会社CFRAのチーフ投資ストラテジスト、サム・ストーバル氏

CFRAのサム・ストーバル氏

5月の米株相場が強いのは、4月の株安要因が後退したからだ。4月は(3月分の)雇用統計が強めに出て、投資家はFRBが利下げ開始まで時間をかけそうだと心配した。コンセンサスではないにせよ、利上げ再開のリスクすら意識し始めた。

だが5月に入り、パウエル議長が利上げの可能性は極めて低いと発言して市場は安堵した。4月分の雇用統計が少し冷え込み、物価指標にも(インフレ鈍化に向けた)明るい兆しが見えたため、投資家は勇気づけられた。

強気相場はしばらく続きそうだが、問題なのは我々がいまどれほどの陶酔状態にあるのかだ。(S&P500の)予想利益ベースのPERは現在、長期平均と比べ30%のプレミアム(上乗せ幅)がついている。現時点で市場はやや高揚、やや楽観的すぎる状態と言える。夏場の後半に高値から5〜10%の下落や(10%超下げる)調整局面を迎える可能性は確かにある。

FRBはデータ依存の政策運営を続けており、再び予想以上のインフレを示す指標が出てくれば(タカ派姿勢を招くため)懸念材料になる。新型コロナウイルス下の貯蓄を使い果たした消費者が支出を止め、借金を一段と増やすこともリスクだ。中東情勢の緊張が高まって原油価格が劇的に上昇するなど、地政学リスクにも注意を払う必要がある。

(聞き手はニューヨーク=斉藤雄太)