住友化学、先達の呪縛が招く大赤字 資本コスト機能せず
「(1913年の)創業以来の危機的な状況を重く受け止める」。岩田圭一社長は2月のオンライン決算説明会で、じくじたる思いを吐露した。24年3月期に連結最終損益で2450億円の赤字(前期は69億円の黒字)と、過去最大を見込んでいた赤字幅がさらに1500億円膨らむ。今期通期業績の下方修正は23年11月に続き2度目になる。
もう一つの不振が子会社の住友ファーマによる医薬品だ。1310億円の赤字となる。米国で23年2月に統合失調症治療薬「ラツーダ」の特許が切れ、収益が落ち込む。
住友化学は管理会計において1999年から各事業部門で資本コストを考慮するなど、自己資本利益率(ROE)、ROI(投下資本利益率)など資本効率の向上に早くから取り組んできたと自負する。しかし岩田社長は「(まだ)事業構造に弱みがある」と認める。資本コスト経営を徹底し、聖域なき事業の選択と集中はできていたか。
同社は25年3月期まで3年間の中期経営計画でROIでWACC(加重平均資本コスト)を上回るレベルを求め、7%以上を「めざす姿」とした。ROIと単純比較できないが、指標としての概念の近いROAでみても7%以上は遠い。事業の見直しが欠かせない。
ある金融関係者は「ラービグも医薬品も本来の成長戦略は正しかった。だが経営環境や市況が変化しているのに、今の経営陣は先輩経営者が描いた路線が正しいと信じて修正しようとしなかった。手を打つのが遅かったのではないか」とみる。
ラービグは03年に三井化学との経営統合交渉が破談になった後、それに代わる成長戦略として当時社長だった故・米倉弘昌氏が社運を賭けて推し進めた案件だった。
ラービグは09年に稼働を始めた後も市況の低迷や運転事故などで不振が続いていたが、12年当時に社長だった十倉雅和氏(現会長)が第2期事業として生産能力の増強を決めた。ラービグの第1〜2期で住友化学の出資分は62億リヤル(約2500億円)にのぼった。
09年から22年までラービグの最終損益は平均すると赤字だ。社内からは「第2期の増強をしていなければ傷口は小さかったのかもしれない」との声も漏れる。
医薬品も米倉氏の肝煎り事業だった。米倉氏は「生き残りには規模が必要だ。再編のチャンスがあれば金はいくらでも出す」との考えだった。05年に旧住友製薬と旧大日本製薬が合併してできた旧大日本住友製薬(現住友ファーマ)はその言葉に沿うように、約26億ドルを投じた米製薬セプラコール買収など意欲的な投資を続けた。
だが直近では大型投資で獲得した前立腺がん治療薬など3つの基幹製品の伸びが計画を下回る。目下、米国で人員のリストラを急ぎ、「止血」に追われている。
岩田社長はラービグの再建策について「アラムコと話し合うステージだ」としつつも、「サウジアラビアへの直接投資のシンボルだ。成功させたい」と事業を続ける考えを示す。一方、医薬品はもともとは安定収益を見込める事業であり再建を支えるという。
先達の経営陣が残したレガシー(遺産)に縛られ続ければ、内向きで変わらない伝統的な日本企業を指す「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」とやゆされかねない。住友化学は米倉氏そして現職の十倉氏という2人の経団連会長を出した日本の代表的な企業だ。だからこそ本当の資本コスト経営を見てみたい。