突然の訃報に触れた。近年はテレビ画面でお見かけする事は無かったとはいえ、いつでも傍らに存在している様に感じられるほど心に残る俳優さんだった。彫りの深い面立ち、低く底響きのする声、ゆっくりとした言い回し、全てを鮮明に思い出す。

 人によって代表作と感じるものは違う事だろう。僕は青森で生活しているため、簡単には舞台を観劇する事はできない。出張する事もしばしばだったし、その都度、観たい舞台が上演されていないかとスケジュールと突き合わせた事もあった。しかし、なかなかタイミングが合わず、上手いこと問屋は卸してくれなかった。したがって、仲代達矢さんといえばテレビ番組の中でお目にかかる名優だった。


 心に残る名作がある。藤沢周平氏の原作でNHKで放送された時代劇『清左衛門残日録』だ。山形県鶴岡市出身の藤沢周平氏が故郷である鶴岡の浜、雪、風景を背景に、藩の権力闘争を静かに、時に激しく描きながら、武士達一人一人の心を浮かび上がらせていく秀作である。

 主人公三谷清左衛門を演じた仲代達矢さんと財津一郎さん演じる友人佐伯熊太との愉快な遣り取り、そして時に緊迫した場面。南果歩さん演じる嫁である里江との本物の親子然とした遣り取り。そして、かたせ梨乃演じる飯屋涌井の女将みさとの心の触れ合い。どれもこれも心をくすぐり、心を揺さぶり、心の深いところに響く演技だった。

 僕はHDDに録画していた『清左衛門残日録』をDVDに焼いて、今も大切に保管している。10日ほど前、久しぶりに観たいと思い立ち、第一話を妻と楽しんだ。


 続けて第二話を観ようと思う。できれば、最終話まで。そして、仲代達矢さんと共に、一昨年亡くなられた財津一郎さんにも会いたいと思う。


 ご冥福を心よりお祈り致します。