クロは卵を温めていた

毎日ずっと シロと交代で

このところ 気持ちが落ち着かない

いや ずっと落ち着かなくて ざわざわする

こうやって 卵を温めて 秋にもまた

そして来年も 再来年も


親から離れる時 クロは大空に誓った

誰よりも立派に 世界一のツバメになるぞ


時が経ち シロと出会った

ドキドキして ソワソワして ジタバタして

シロと一緒になった


今 クロは 卵を温めながら思う

これでいいのだろうか

このままじゃ 時間が無くなっちゃう

何をすれば どこにいけば なれるのか

自分自身が望んだ自分に


クロのおなかの下で 雛がかえった

もう一羽 そしてもう一羽 次々と

全部で五羽の子供たち


シロは子供たちに寄り添い 世話をする

クロは子供たちの餌を せっせと運ぶ

そして自分でも食べたら シロと交代

クロが世話をして シロは自分の食事


忙しい毎日の中 クロは子育てで精一杯

目指す何かも 将来のことも

何も考える間もなく 時は過ぎて


やがて巣立ちの時 子供たちは順番に

お父さんありがとうと言って

巣の外へ向かって羽ばたいて

近くの木に止まって 周りをキョロキョロ

中には お父さん お父さんと呼ぶ子も


この時クロは気づきました

あの子供たちのように 僕も育ててもらい

巣立ち シロと出会った そして子供たち

僕の仕事は 子供たちを無事に巣立たせる事

立派でも 世界一でもなくていい


子供たちの ただ一人のお父さんなのだから


クロは 子供達が集まる枝に 飛び出した