今、病院の玄関脇、樹脂製の白い椅子に座っている。お義母さんは今、電気を当てて治療中だが、僕はさっきまで6km歩いて来たから、日陰で風に吹かれて汗を引かせているところだ。


 久しぶりに青い空を見ている。飛行機雲が3本、よれよれのふにゃふにゃになって空に浮かんでいる。まるで、二重らせんの遺伝子の様だ。視界の低い位置、遠くには少しだけ雲がある。視線を段々と真上に移すと、その青色は濃くなって行き、夏の空となる。


 この地球上で、沢山の命がひしめき合っている。喜びと悲しみの感情が街に溢れて、行き交う人を笑顔にしたり、渋い顔にしたり。


 誰もが等しく生きている。

 今笑顔に包まれている人は、この先、少しだけ悲しいことや寂しいことがあるかも知れない。

 今悲しみに暮れている人は、この先、たっぷりの楽しい事と充分な幸せが待っている事だろう。


 僕も空を見上げてゆっくりしよう。


 沢山の命が世界中にあることを噛み締めながら。