あと一歩 あと一歩だけ

タクヤは頑張ろうとした

だけど どうしても足が動かない

扉はすぐそこに 出口はすぐそこにあるのに

ここを出て 次に場所に進めるのに


タクヤは 落ち着こうと 深呼吸をした

もう一度 そしてもう一度


ふと気づくと おじいさんが隣に居る

ほら まずはこの椅子に座りなさい

タクヤとおじいさんの間に 椅子があった

タクヤは 少し不思議な気持ちで 座った


知らぬ間に おじいさんの姿は消えていた

ふと気づくと おばあさんが横に居る

ほらほら おにぎり お腹が空いたでしょ

お腹が鳴って おにぎりを一気に食べた


知らぬ間に おばあさんの姿は消えていた

ふと気づくと 男の子が横に居る

これね コーラって言うんだ 飲んで飲んで

おにぎりを食べて乾いた喉を 潤した


知らぬ間に 男の子の姿は消えていた

ふと気づくと 男の人が横に居る

ためだねぇ この靴じゃ重くて歩けないだろう

履いていた靴を見ると 鉄の靴だった

タクヤは その靴から足を抜いた


知らぬ間に 男の人の姿は消えていた


その時 若い夫婦が近付いてきた

ニコニコしながら 真っ直ぐタクヤの方に

ほら タクヤ お気に入りを持ってきたぞ

若い頃のお父さんが 下駄を掲げた

さあ タクヤ 靴下も脱いじゃいなさい

若い頃のお母さんが 笑顔で言った

2人はしゃがみ込み 座っているタクヤに

あれやこれやと 世話してくれた

立ち上がって 母は 僕の髪を撫でほぐし

一緒になって 父は 服を整えてくれた

そして 立ち上がってごらん と

タクヤは立った 疲れは嘘の様に消え

気持ちが軽く 笑顔がこぼれた


若い父が 言った

どうだ 裸足に下駄は 気持ちいいだろう

若い母が 言った

そうね やっぱり笑顔でなきゃね


タクヤは 2人を交互に見つめ

そして 足下の下駄に目をくれた


ふと気づくと 両親の姿も消えていた

そして 椅子もなくなっていた

タクヤは 裸足で下駄を履いていた


歩いてみようと思った

すんなりと 軽く 足を踏み出せた

そして 扉のノブに手を伸ばした

このドアを開けたら みんなに会いに行こう

お父さん お母さん

大好きだった先生

おじいちゃんとおばあちゃんのお墓にも

男の子はきっと 幼い僕だ 素直になろう


このドアを開けたら 絶対に会いに行く

タクヤは 力強く ノブを握りしめた