西日本までが梅雨明けした。関東、東北も今週一山越えて来週には梅雨明けしそうだ。青森は最高気温が30℃手前まで来ている。ぴょこんぴょこんと真夏日が頭を出す日も近い。
昨日の夜、風鈴を取り付けた。危うく忘れるところだった。窓を開けて風の吹き込む夕刻に、ふとあの音が無いことに気付き、しかし慌てもせずに探して取り付けた。取り付けていると、チとか、チリとか音が鳴る。そしてたまにチリンとか鳴ったりもする。
取り付けると、風に吹かれてチリチリンと夏らしい音を響かせていた。
実は、もう一つの風鈴がある。
25年ほど前だろうか。関東一円に一週間ほど出張した折、たまたま立ち寄った都内の何処ぞの百貨出で工芸品展が催されていた。僕は工芸品が好きで、時間潰しにはもってこいの寄り道だった。
そんな中にその風鈴はあった。紐を結んだ鉄製の頭頂金具に、長さ20センチほどの鉄棒が4本、間隔を開けてぶら下がっている。それらの真ん中に、歯車状の小さな鉄芯がぶら下り、風を受けてあちこち動くように短冊を下げている。
逆に辿って風を吹かせてみよう。
風が吹く。短冊が揺れる。短冊を結えている車輪状の鉄芯が不規則に動く。4本の鉄棒に触れて、音を鳴らす。
その音は、棒が今まで聞いた風鈴の音(ね)の中で飛び抜けて長く余韻を残す。オクターブ高いかと思われる澄んだ音は、少しだけ音程を畝りながら強弱を繰り返して、静かに響き続ける。
その音が、ふたつ、みっつと鉄の棒に当たってゆくと、半音ほどの違いの涼やかさが部屋の中にも外にも染み入る。まるで、夜は長いぞうと言っているかのように、長くその尾を引きながら。
その風鈴が見つからない。捨ててなどいない。何処かにしまっただけなのに。
今夜はあの音に耳を澄ませたい。