たくさんの子供達が遊ぶ 緑の高原
ボールを追いかけて 走り回ったり
長い虫取り網を 持て余しながら
空を見上げて 虫を追いかけたり
蝉の鳴き声が 賑やかに 忙しそうに
そんな高原に 一本の若木が立っていました
林が始まる 草原の端っこに ひっそりと
お母さんと手を繋ぎ 女の子が木に近づき
木を指さして 尋ねます
お母さん ほらあそこ コブがある
どうしたのかな
そうね 鹿さんに 皮を食べられたのね
それで かさぶたができちゃったの
女の子は じーっと木を見つめ
ポケットから ハンカチを出しました
そして ゆっくりと木に近づき
コブの上に ふわりと のせてあげました
お母さんを見上げて
これで治るかな と 言いました
どうかな と お母さん
でも きっと もう痛くなくなったね
風が吹き さわさわと葉が揺れます
ふたりは しばらく木を見つめ
やがて 賑やかな声の方に 戻りました
🌲 🌲 🌲
女の子は やがて 明るい少女になり
少女は やがて 可愛らしい女性になり
女性は やがて 優しいお母さんになり
そして 微笑むおばあさんになりました
🌲 🌲 🌲
おばあさんは 孫と一緒に
賑わう高原を 散歩しています
林の始まる 草原の端っこ
孫の女の子が 大きな木を指さして
おばあちゃん あれは何 と 尋ねました
見上げた先に
大きな大きな コブがありました
おばあさんは 気づきました
子供の頃 ハンカチをのせた あの木だと
おばあさんは 思いました
この木のことを 忘れていたと
おばあさんは 振り返りました
出会い 旅立ち 長い月日が 経ちました
おばあさんの目に 涙が滲みます
おばあさんは 大きな木に 伝えました
また 会えましたね
遅くなって ごめんなさいね
あなたは ずっとここに居たのですね
これからも ずっと居るのですね
少しずつ 大きくなりながら
少しずつ 枝を伸ばしながら
風が吹き さわさわと葉が揺れます
おばあさんは 孫の女の子に言いました
きっと 随分前に できたかさぶたよ
もう 痛みもないし 病気でもないけれど
このかさぶたは ずっと残るの
そして この木も ずっと残るの
あなたが大人になっても
ずっとずっと ここに居るの
おばあさんは 木を見つめて
心の中で つぶやきました
今度は この子を お願いしますね
ふたりは しばらく木を見つめ
やがて 賑やかな声の方に 戻りました
風が吹き さわさわと葉が揺れます
緩やかな風と共に さわさわと揺れ続けます