母は結構強い人だった。子供の頃に感じていた訳ではなく、妻と結婚して娘が小学生の頃だったと思う。遊びに行った時に、雅子皇后が当時まだ皇太子妃で、精神的な病のために公務をこなせていないことに対しての発言だった。何があっても皇太子を支えなければいけないんだから、公務を控えるなんてあり得ないというのだ。僕が何度も精神的に追い込まれていると無理なんだと話しても納得しない。だめの一点張りだった。


 NHKの『しあわせは食べて寝て待て』では、桜井ユキさん演じる主人公の母親が登場する。朝加真由美さん演じる母親は、主人公の住む団地を突然訪れて脂っこい食べ物を沢山並べて、こんな古い団地で1人で暮らすなんて侘しすぎるとため息混じりに話す。食べないから元気が出ないのよとも。主人公が何度も病気のことを説明しているにも関わらずだ。やれば何とかなるとか、頑張ってみなさいとか強い言葉が続く。

 こう言った母親もしくは父親は沢山いると思う。時折そういう話し方をしてしまうという場合も含めると、かなりの割合になるかも知れない。僕だって例外ではない。子供に対してだけではなく妻に対しての言動を含めると、思い当たる節が沢山ある。

 親は、子供を何とかしたいと思って応援し、時に無理矢理引き回し、強要する。子供の事を考えての発言や行動だが、一方的な圧力は子供を追い詰めてゆくと気づいて欲しい。

 子供が辛い時には、頑張りなさいではなく、辛いねの言葉を添えて頭を撫でたり抱きしめてあげる事が何より大切だ。ゆっくりしか進めないこともあるだろう。それでも、頭を撫で続け、抱きしめてあげて、常に話を聞いて寄り添ってあげて欲しい。


 休ませてあげたり、自分のペースでゆっくり歩むのを見ていてあげたりする事が、『応援する』という事なのだと思う。


 主人公はそんな事がありながらも、加賀まりこさん演じる大家さんに対して、「すずさん、ずっとここにいられたらいいですね」と柔らかい言葉をかけた。


 彼女の優しさに涙が滲んだ。