幼い頃の記憶は次第に薄れてゆき、強く印象に残るいくつかの記憶が、ある程度の鮮明さで残る。一瞬を切り取られた場面だけの記憶だったり、美しさを鮮明に覚えていたり。当時の感情を常に重ね合わせてということではないが、時には感情が優先する記憶もある。
昨年9月、NHKでドラマ『シュリンク』が放送された。中村倫也君が演じる主人公の精神科医は、遠く静かに寄り添いながら、やがて患者の信頼を得て深く入り込み、的確な治療を施してゆく。彼の患者に対する向き合い方に強く感動する。
最終話では、ちょっとした不満や不安で激昂してしまう若い女性が患者として医院を訪れる。
その中で、インナーチャイルドという言葉が登場する。子供の頃の幸せじゃ無かった記憶、例えば親が喧嘩ばかりとか、親がきちんと向き合ってくれず満たされない思いが心の奥底に潜んでいることを、心の中の小さな自分として表現している。
精神的不調には様々な原因がある。その多くは、幾つかの要因が接したり絡んだりしている。しかし、倫也君演じる医師のように、まずは目立つ要因を取り除くことにより、他の事柄のほつれが解かれ、消えて行く事さえある。
治療を進める中で女性は家族からの自立を試み、花屋で働き始める。少し経ち、医師はその花屋を訪れる。医師に花束をお願いされた彼女は、どんな花束にしますかと尋ねる。中村倫也君演じる医師はこう答える。
「うんと素敵な花束を」
この言葉の何と清々しく優しいことか。