娘は、運動部と学業の傍ら、高校までピアノを習っていた。3人の先生に師事して様々な曲を弾いた中で、シューベルトの幻想即興曲は群を抜いていた。親ばかとしては皆さんにお聞かせしたいところだが、娘が拒否するのは目に見えているのでやめておこう。


 年に1度か2度ピアノの調律をしてくれていた方がバイオリンを始めたというので、ミニコンサートに彼女の演奏を聴きに行った。その日の演目の中の一曲に、僕は胸を打たれた。ソプラノの独唱とピアノの伴奏で演奏された。その曲は、アヴェ・マリアなのだがよく耳にするシューベルトのそれではなく、初めて聞く曲だった。美しくも悲しく、深い愛を感じさせるその歌声と旋律に僕は震えた。

 2〜3ヶ月経ってもその感動は消えず、再度聴きたい思いが収まらなかった。僕は、メロディを思い出せないものの、数十曲もあると言われるアヴェ・マリアの楽譜をネット上で探しては確認して、5曲目位でついに見つけた。それは、カッシーニの作曲と言われていたアヴェ・マリアだった。

 その数年後、NHKの『らららクラシック』という音楽番組でカッシーニのアヴェ・マリアが取り上げられていた。実はロシアのリュート奏者であり作曲家であるバビロフ(ヴァヴィロフ)が、自ら作曲したこの曲を、「どうやらカッシーニの曲らしい」と紹介して広めていたようだ。

 完成された美しい旋律は、もはや誰の作曲でも関係ないと思えるほどだ。聴いていただければと思う。

 番組では、出演者でありピアニストである加羽沢美濃さんが以前からこの曲を編曲してアルバムに収めていたものを独奏した。アレンジも刹那的で大変美しかった。今回は、美濃さんの演奏に加えて、主旋律が分かりやすいバイオリンでも聞いていただければと思う。26歳の新進バイオリニスト、高松あいさんの演奏で。

 番組の動画を切り取って下さった林住人さん。ありがとうございます。


※『ミュートを解除』してお聞きください

🔎 カッチーニ アヴェマリア 加羽沢美濃

アヴェ・マリア

 目を閉じてこの曲を聴いていると静かに涙が滲んでくる。何度聞いてもだ。バビロフに感謝したい。