僕には作品全般が好きな画家と、作品に限り好む画家がいる。


 前者の代表は東京芸大の名誉教授まで務めた日本画家、故平山郁夫。そして、昭和を代表する日本画家の故東山魁夷である。そして後者の代表格が、才能溢れ、文人とも深く交流のあった故岸田劉生の椿を描いた二題、『竹籠含春』と『籠椿』である。


 背景は存在するが、全く主張しない。竹籠は存在するが、それすら背景にも感じられる。その、赤暗い色合いの背景と籠に包まれて、椿の花だけがぽつりぽつりと浮かび上がる。厚みのある花びらが、油絵独特の深みのある色合いのグラデーションで描かれ、存在感が鮮やかである。束になった白い雄しべが絵全体の中で生命感を強く感じさせる。


 20年ほど前、青森県七戸町の鷹山宇一記念美術館でこの『籠椿』と対面した。僕の意識は、全40点ほどの椿作品の中でこの一枚に集中した。ずっと見つめ、一旦椅子に腰掛けて眺め、また立ち上がっては見つめる。そんな事を何度も繰り返した。僕はこの絵と出会ってから、椿が好きになった様だ。自分では認識していなかったが、雑貨やら何やらで椿の柄に目が行く様になって、妻に指摘されたのだ。


 全国に、会いたい作品が沢山ある。


 もちろんこの作品にも。もう一度。