初めて自分用の自転車を買ってもらったのは高校に入学した時だった。その前は姉の22インチのお下がりを使っていた。女子用なので、自分の自転車という感覚は無かった。

 小学校の時から自分の自転車を持っている友達も当然いた。新車を買ってもらうのもそうだが、お兄さんからお下がりをもらったり。僕が自転車に乗れる様になったのも、友達の自転車で練習させてもらったからだ。それからはたまに父の自転車を借りて乗っていた。

 昔の自転車のフレームは、ロード用もスポーツ用も大方同じ形だった。自転車を横から見ると、真ん中部分のフレームは必ず三角形に組んで溶接されていた。三角形が一番頑丈だというのも当然あるだろう。しかし大人用の自転車ではペダルに足は届かない。そこで編み出されたのが『三角乗り』である。

 左ペダルに左足を乗せて、交差した右足で少し後ろの地面を2、3回蹴りながら勢いをつける。で、いいところで左足に重心をかけたまま、右足を、何と三角形のフレームの中を通して右ペダルに乗せるのだ。この状態で乗り続ける。体がフレームの左側に常にあるため、色々と不都合が生じてくる。

 ・サドルに座れない

 ・ペダルを廻せない(少しずつ漕ぐだけ)

 ・不自然な姿勢で疲れる

 しかし、それしか方法がなかったのである。


 さて、話を『僕の』自転車に戻そう。

 中学当時、友達の多くは、フラッシャー付きの自転車だった。荷台の下の長方形の黒いボックスのランプが、左から右へ、右から左へと点滅する。車のウインカーである。しかし、壊れたり電池がなくなったりで『点かない』フラッシャーが目立ち始めていた。

 僕はフラッシャー無しの、当時珍しいオイルディスクブレーキの自転車を選んだ。我ながら高額のおねだりだった。自分から友達に自慢することはなかったが、結構な数の友達が気づいて驚いてくれた。僕は見た目には何の変哲もない自分の自転車が大好きだった。


 いかんせん物選びは流行に左右される。あの人が持っているもの、着ているものというのもあるだろう。しかし、流行には乗っていなくても、誰かが持っていなくても自分の目に留まったものを選ぶと、自分だけの『お気に入り』という楽しみが待っている。


 自分だけの『お気に入り』をぜひ。