夏休みも終わり、子供達は宿題を抱えて再び学校へ。慌ただしい毎日が始まったけど、楽しめるといいですね。
僕が小学生の頃は、朝学校に行くとテレビの話題がほぼほぼ中心。小学生の間に、カラー放送が始まったり、地方のキー局が増えたりと、未来に向けて色々なものが変わりゆくのを肌で感じていた。鉄腕アトム、宇宙少年ソラン、スーパージェッター。次々と現れる少年ヒーローに胸を躍らせる毎日。
夏休みは、毎朝のラジオ体操にさえ行ければ、多少の夜更かしは許された。しかし、テレビは一家に一台の時代。夜になるとチャンネル権は親に移る。
毎年夏になると季節の編成が組まれて、8時台か9時台に怪談話が放送された。週一だったか一週間毎日だったか、その辺りは記憶が定まらないが、両親は必ずと言っていいほどこの番組を観た。井戸の底から「一枚、二枚」と恨めしい声が夜な夜な聞こえる『番町皿屋敷』、武家の妻、お岩がが主人に惨殺され、夜、昼を問わず幽霊となって現れ主人に取り憑き破滅させる『四谷怪談』。他にも様々な話を観た。いずれもおどろおどろしく、怖かった。しかし、怖いもの見たさも手伝っていつも最後まで観たものだ。
大変なのはその後である。トイレ、物置部屋、犬小屋、どこに行くのも勇気が要った。どこからか手が伸びてくるのでは、壁を通り抜けていきなり顔が出てくるのでは、果ては、天井から黒髪がどさっと落ちてこないかとか。自分ではおうぎょうな罪を犯したつもりは無くても、やはり怖い。何と言っても敵は神出鬼没でところ構わず襲いかかる。姿を現す可能性のあるあらゆる箇所に目を配り、目を離さない事が唯一の戦い方だった。
その後、視聴者に飽きられたのか、知らぬ間に夏の風物詩は放送されなくなった。次第にそう言った類の理不尽な恐怖は、僕の心の表に出てこなくなった。
中学以降、洋画でオカルト映画が制作されたり、最近では邦画でも年に一本位のペースで話題作が放映されている。しかし、子供の頃に観た怪談ものは特別だった。私たちの日常に近い場所、生活、文化の隣りに潜む夜の恐怖を、幼心にきちんと植え付けてくれた。
この歳になると、捉えられない、得体の知れない幽霊への恐怖は無い。あるのは、自然災害の恐怖、犯罪に巻き込まれる恐怖、そして世界のあちこちで紛争が起き、無差別に失われていく命の無常への恐怖であろう。
様々な事情から紛争は起きる。しかし、はっきりと悪いと感じる指導者もいる。ここは是非とも日本の名だたる幽霊達に登場してもらい、夜な夜な出現し彼らを改心させて欲しいものである。