二〇〇一年 成人の日




テレビ局内の大きなホール




大勢のお客さんたちの

響き渡る笑い声

その視線の先で力いっぱいのネタを披露する僕ら。

確かな手ごたえがあった。



人生には誰でも必ず三回のチャンスが訪れると言われている。

それが本当ならば

これはまさにその一回目のチャンスだったのかもしれない。




お笑い新人グランプリ




結成五年未満の若手の登竜門と言われるこの賞レース。



ここで一番の称号『最優秀新人賞』を獲得すれば必ず売れると言われていた。

過去にもそうそうたる人たちがこの賞を獲って世に出て行った。


今や伝説とも言うべき天才芸人と言われているあの大物先輩コンビも


背が小さくコミカルな動きでアイドル顔負けな切れのあるダンスまでもやってのけお茶の間に笑いを提供するあの先輩コンビも


この賞の受賞者だ。

それもあり、いつしかそう呼ばれるようになった。


「売れたい!」


そんなストレート過ぎて ポッ となってしまうような言葉

口に出しては言わないが、皆そう思っている。

売れたくない奴など何処にもいない。

僕らも当然そう思っている。



「売れたい」



否が応にも頭をよぎるその言葉。



笑いが起こる度に


『売れる』

『売れる!』

『売れる!!』


頭の中で連呼されるこの言葉。

もう次は口に出して叫んでしまいそうだった。



最後のオチのセリフも笑いで終わり

僕は心の中で小さくガッツポーズをした。


『よしっ!』



そして審査員の言葉

お笑いトリオとして活躍し、今現在は辛口コメンテーターとしても活躍している方。その人が言った


「面白いし、間もいいし、テンポも申す分ない…」



その言葉を聞き頭の中に強くよぎる


「売れ…」



「申し分ないん、だが…」



「だが?」


「ネタの争点が全てお客さんを向いているんだよね。要求通りというか、やってほしいと思う事をやっている。お客さんに合わせちゃってるんだよね。」



「あれ?あれれ?売れ…」



手を伸ばせばすぐ手の届く所に見えていたと思った『売れる』という言葉が急に遠く感じた。そして…かすんだ。



そして



ドルルルルルルル…

響き渡る結果発表のドラムロール

グルグル舞台上を回るスポットライト

そして目の前が明るくなった。



「え?」

「うそっ?」



と顔を上げた瞬間その光は隣へ

視界は暗くなり

それと同時に響き渡る歓声。

最優秀新人賞受賞は僕らの隣にいたコンビだった。

それは僕らよりも二年半後輩で養成所在籍中から劇場へレギュラー入りし異例のスピード出世で次のスターと言われていたコンビだった。

当時まだ結成一年半程しか経っていなかった。

その速さでの受賞。それも異例の速さだった。



次の日、その結果は新聞各社で掲載され

その後輩コンビはテレビに出演し、インタビューを受け

その名は関西中に一気に広まった。

そして深夜ではあるが、冠番組まで与えられた。



一夜にしてスターが生まれ生活がガラッと変わるとよく言われるが

まさにそれを目の当たりにした瞬間だった。



人生には必ずチャンスが訪れる。

それは誰にでも平等に訪れる。と思う。

それを物に出来るか出来ないかで人生が決まるのだと思う。

成功している人たちは同じ数だけあるその少ないチャンスを確実に物にしている。

ただ、その違いだけだ

だけどその違いは短い人生の中でものすごく大きな違いに繋がる。

僕は周りがスターになっていく瞬間を何度も見てきた。

その度に一人取り残される敗北感を感じた。



けれど僕は諦めない。必ず物に出来るチャンスはやってくる。

そう信じて。




狭い部屋の隅で一人流した悔し涙を拭い、来年こそは、と熱い思いを抱いた寒い冬の夜の事だった。