二十一世紀
その昔、少年時代
ノストラダムスの予言が流行し
一九九九年 地球が滅亡する。
そんな噂が囁かれていた。
本当にそんな事が起こるのかな?
一九九九年
二三歳
僕の人生はそこで終わるのか?
二十三歳になった僕はいったい何をやっているんだろう?
友達のいなかった少年時代の僕はそんな事をよく考えていた。
あの頃想像でしかなかった二十三歳の僕は
大阪で芸人になっていた。
そして
来ないかもしれないと思っていた二十一世紀を迎え
もしかしたら、その年で人生が終わるかもしれないと思っていたその年齢を越え
想像していなかった二十四歳になり
その結果
僕は想像をはるかに超えた大舞台に立っていた。
一月
成人の日
お笑い新人グランプリ
その大舞台の中に僕は立っていた。
目の前には今まで見たことのない数の大勢のお客さんたち。
何台ものテレビカメラ。
初めてのテレビ出演。
初めての生放送。
初めてのテレビでのネタ披露。
初めてのインタビュー。
初めて生で見るタレントさんたち…
初めての…
キリが無い程の、初めて尽くし。
そんな場所に今まさに僕らは立っていた。
当日のネタ順は予選会の後別室にてクジ引きによって決められていた。
僕らの順番は十組いる中の六番目。
まずまずの位置。
ネタ順はトップバッターだとお客さんがまだ固いし、最後でもお客さんが疲れてくる為、お客さんが乗ってくる中盤がやりやすいとされている。
だから六番目というのは非常にいい位置だった。
僕らは味わった事の無い緊張の中、その時を待った。
そんな僕らには秘策があった。
と言っても
勝つ可能性など分からない。
一か八かの大勝負だった。
ネタを変えたのだ。
通常、予選と本選は同じネタをする。
それは予選で披露したネタがベストのネタでそれを評価されての本選だから
だけど僕らには引っかかっていた
あの言葉が
「あのネタは?小学生のプールのネタ。あれ面白くって私好きだけどなぁ」
予選会前のネタ見せで支配人が言ってくれたこの言葉。
僕らは予選会を通過した時、本選ではそのネタをやろうと決めていた。
それは、会社にも了承を得ていた。
本選前行われたネタ見せでその旨を伝え、披露した。
すると支配人は言った
「いいんじゃない?一番が取れるかどうかは分からないけど、それぐらい思いっきりやって、ダメだったらそれはそれで諦めがつくんちゃう?」
その言葉を胸に
ノーマークの僕らが少しでも爪痕を残して帰ろうと思い選んだネタ
それは
小学生の僕がプールの授業の後にパンツをなくして着替えられなくなるというネタ
衣装は海パン一丁に水泳帽。
この大舞台のソデで待つその姿は
まるで変態。
恥ずかしい。
ピシッとスーツを着こなした芸人たちの中に一人パンツ一丁の僕。
何度となく選択を間違えたと思った。
ウケなければ本当にただの変態だ
でももう後戻りはできない。
やるしかない!
そして僕らは大舞台に飛び出した。
『僕は、変態じゃ、ない、たぶん』
その容姿で笑いが起こった。
勝負を賭けたネタ。
温かいお客さんたちの反応
胸がドキドキした
足がガクガクした
口がカラカラになった
でもそれはやがて快感になり
気持ち良くなっていった
『俺は変態なのかもしれない』
『それでもいいや』
人は生きていく中でどれだけの緊張をしていくのだろう?
でも、こんなにも
時には心臓が飛び出しそうになるくらい
時には尋常じゃないスピードの脈拍で爆発するんじゃないかとい思うくらい
そんな緊張普通の人にはあるのだろうか?
僕は普通の人がなかなか出来ない貴重な体験をさせてもらっているんだ
芸人になってよかった。
そう思った瞬間だった。
『幸せだぁ~』
外は雪がチラつく程の寒さにもかかわらず、裸だというのにむしろ温かさを感じた
二十一世紀最初の月の事だった。