一九九九 春
僕たちは同期たちと場所を借りてインディーズライブを始めた。
少しでもお客さんの前に立つために
そして
いつ訪れるか分からない出番に備えて。
出る場所がなくなり半年が経った。
オーディションを受けていた先輩芸人や同期たちが次々に辞めていった。
でも、僕たちは諦めず自分たちのライブをコツコツと続けた。
そんな時、
新しい若手の劇場が出来るという噂が芸人の間で流れた。
周りの若手芸人たちは期待で胸を躍らせていた。
僕らも喜んだ。
その反面、
「どうせ受からないんやろ?」
心のどっかでそう思っていた自分もいた。
そして、その年の九月
千日前に新しい劇場が誕生した。
劇場に出るための新しい公開オーディションが始まった。
でも僕らは
「また同じ事だ。どうせ受からないだろう」と思って
初めの月、やっぱりそれを受けなかった。
だけど、一緒にインディーズライブを行っていた仲間たちが受かりだしだ。
僕らはそれを見て
まぁ出るところのないし来月受けてみようかなと、でも
「同じ事の繰り返しをしていても意味がないから目標を立てよう」
と僕は相方に提案した。
「そやな」
「よし、半年で劇場のレギュラーまで上がろう。そして一年後、東京に出よう」
「うん」
これはかなりの決意だった。
東京に出る。
これは大阪で活動している芸人の誰もが持つ目標だった。
東京。
それは大阪にいるものにとって
とても大きく遠い場所だった。
いつかは必ず行きたい。そう思っていた。
大阪は所詮、大阪。
一地方だ。
大阪発信の全国ネット番組などない。
全国区になる為には東京に行かなければ
そう思ってみんな目指した。
だけど、大阪で一度売れて、そして東京に進出する。
そんな時代だった。
だからみんなそう思っても、なかなか口に出せないでいた。
僕はそれをあえて口に出した。
その高い目標を出すことで自分達を奮い立たそうと思った。
翌月、僕らはオーディションを受けた。
落ちた。
「やっぱりダメ」、そう思って肩を落としかけた時、
このオーディションを担当している構成作家の人に話しかけられた。
「自分らおもろかったよ。ただなぁ、客の笑い声がなかったから合格させられなかった。いい線してるから来月もう一回観せて。頑張って」
意外な言葉に驚いた。
失いかけていた自信に火がついた。
『いける』
僕らは一ヶ月かけて必死に新ネタを作った。
そして、一ヵ月後。
客席から笑いが起こった。
僕が、
相方が、
言葉を発する度に笑いが起こった。
若い中高生には受けないと諦めかけていたこの劇場で
笑いが起こっている。
僕らは無我夢中でコントを演じた。
そして一分半やりきった。
合格の音楽がなった。
僕らは二人で思いっきりガッツポーズをした。
二年半待ち続けた瞬間だった。
新しい劇場のオーディションのシステムはこんな感じだった。
毎週日曜日の昼間に公開オーディションがある。
審査員はイベント担当の構成作家。
ネタ時間は一分半。
毎週約五十組参加し、平均して五組くらい合格する。
そして、それを三週行い、四週目に各週で合格した合計約十五組から二十組で決勝戦を行う。
ネタ時間は三分。三分半で強制終了。
お客さんの投票により順位を決め、上位三組が劇場の準レギュラー組十組と合わせて十三組でネタバトルをする。
ネタ時間は五分。五分半で強制終了。
お客さんの投票で上位十組が翌月の劇場レギュラーとして毎週の新ネタライブに出演出来る。
そんな流れだ。
僕らには自信があった。
お客さんの審査なら勝てる。
それは、毎月行ってきた梅田でのイベントの実績があったから。
そして決勝戦。
ネタの順番はイベント当日、イベント内でくじ引きで決まる。
僕らは二番目だった。
これは、全部のネタが終了して投票するこのイベントにとっては不利だった。
二十組もネタを観た後に覚えているかが難しいからだ。
でも、僕らは自分らのネタを信じて演じきった。
そして結果発表。
MCに一位から順番に呼び込まれる。
僕らは舞台袖で祈った。
そして…
二位、僕らの名前が呼ばれた。
僕らは一気に駆け出た。
客席から歓声が聞こえた。
梅田のイベントの時から応援してくれていたお客さんたちだった。
うれしかった。
でもこれで終わったわけではない。
ここからが勝負だった。
明日、勝てば劇場のレギュラーに上がれる。
プロとしてスタートラインに立てる。
だけど絶対の自信があった。
負ける気がしなかった。
結果、
僕らは八位で見事劇場のレギュラーに昇格した。
同期がなしえなかった劇場レギュラーの壁をわずか二ヶ月で突破した。
僕らは絶対なる自信に満ち溢れていた。
これからどんどん仕事を増やしていける。
明るい未来が見え始めた
その時、このレギュラーライブを担当する演出家の人が言った。
「一位以外みんな一緒や!」
そして、僕らに向かって一言
「お前らなんか客にケツの穴見せてるようなもんや!俺は認めない!」
「ひぇー」
上がっていた自信が一気に落ちた。
僕らはいきなりプロの洗礼を浴びた。
一九九九年も終わりに近づく歳の瀬の冬の事だった。