一九九七 秋
僕らは養成所を卒業した。
コンビを結成した後も相変わらず評価はされなかった。
でも明らかに変わった事があった。
それは…
ネタ作り。
楽しかった。
一人でしていた時は正直何が面白くて、何が面白くないのか分からなかった。
でも二人でのネタ作りはとにかく楽しかった。
僕らは毎日会った。
そしていろんな話をした。
恋愛の事。
バイト先での事。
今日あった出来事など
どれもこれもが面白かった。
無駄話が盛り上がりすぎてネタ作りが進まないなんて事はしょっちゅうあった。
「今日こそはネタ作りの話しような。」
「今日は無駄話禁止な」
なんて言ったりもしたが、結局は無駄話で花が咲いてしまった。
でも、この無駄話こそが
面白いネタを作る為の最も重要な事だと気付くのは…これからまだ先の話だった。
この時はまだ
それをただの無駄だと思っていた。
だけど、あの頃の僕らは、それが楽しくてしょうがなかった。
ネタ作りは試行錯誤の繰り返しだった。
漫才というものを理解しようと
今はコンビを辞めバラエティー番組の司会などをしているベテラン先輩芸人のコンビ時代の漫才をビデオを観ながら一言一言台本におこした事もある。しゃべりが早すぎてついていけず巻き戻しと再生を繰り返した結果ビデオデッキが壊れた事もあった。
初めの頃ネタは二人で作っていた。
二人で面白いと思う設定を出し合った。
その中から、それおもろいなぁって盛り上がると自然とミニコントに発展していった。そしてその後、
「さっきのあのやりとりおもろかったなぁ。なんて言ってたっけ?」
と振り返りながら僕がそのやりとりをメモしていく。
そして振り返るうちにまた楽しくなってミニコントが始まり、また振り返りメモを取る。その繰り返しだった。
そのやりとりやフレーズのメモを見て、僕がパズルのように構成を考えて台本におこし一つのネタにしていく。そんな感じだった。
だから非常に時間がかかった。
一ヶ月に一本作るのもしんどかった。
養成所を卒業すると僕たちは心斎橋にある若手の劇場に出る為のオーディションを受けに行くことになった。
そのオーディションはお客さんを入れた公開オーディションで毎週日曜日の昼間にやっていた。
オーディションを受けるのは、僕らのように養成所を卒業した生徒の他に一般からも自由に受ける事が出来た。
僕らの同期だけでも三百人くらい。
先輩芸人も何百人もいて、さらに一般の人も参加出来るからものすごい数だった。
だけど、オーディションには定員があったので参加者はクジ引きで決められた。
クジに当たらなければ受ける事すら出来ない。
運よくクジに当たってもチャンスは月一回だけだった。
何ヶ月も当たらない時期もあった。
だから舞台に立てるチャンスは月に多くて一回。
下手すりゃ何ヶ月も立てなかった。
だけど僕らは毎日ネタ作りとネタ合わせを繰り返した。
オーディションは
毎回出れるのは三十組くらい。
持ち時間は一分半。
しかし、面白くなければ時間内でも容赦なく不合格にされる。
合格するのは一組か二組。
合否の判定は劇場担当の構成作家がしていた。
まず最後までネタをする事自体が難しかった。
月一回あるかないかのその舞台に僕らは全力でいどんだ。
だが、結果は毎回不合格。
一分ももたない。
でも僕たちは諦めなかった。
出番はない。
それでも僕らは毎日ネタ合わせをした。
そんな僕らを同期たちはあざ笑った。
養成所時代Aクラスだった奴らだ。
僕らは万年Cクラスでカス扱いだったから
カスが無駄な努力していると思われていた。
「お前らまだ毎日ネタ合わせしてんの?365日中何日?俺らなんか10日ぐらいちゃう?わはははは…」
そいつらは何回かは合格していた。
ただ、その上のレギュラーにはなれないでいたが。
それでも僕らは毎日ネタ合わせをした。
毎日
毎日
毎日、繰り返した。
続く…